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ジェマは再び手元の道具に視線を落として作業を続ける。装飾を施したアンクレットに土属性の魔石を嵌め込んだら、次は指輪。
「指輪の装飾もこだわるね」
「もちろん。セインさんには待っていただいている分、最高のものを作らないと」
ジェマはそう言いながら手早く彫り込んでいく。ローテンドに似合う唐草模様。丁寧な掘りには繊細な花まで咲く。
「本当に、綺麗だ」
ヒュプノスはジェマがデザインする花に感嘆の笑みを零す。ジェマは嬉しそうにその表情を見上げて、小さく笑った。
「なんだか、小さいときの私を思い出すなぁ」
「え、僕が?」
「うん。なんか、似てるかも」
ジェマは懐かしそうに微笑みながらも、指輪の彫刻をする手は止めない。ヒュプノスは少しジェマに近付くように座り直した。
「どんなところが、似ているの?」
ヒュプノスの声は小さく震えていた。ジェマはそれに気が付くことなく、肩をすくめた。
「私もね、お父さんが作業しているとき、隣で見ていたことがあったの。そのとき、いっつもすごい、綺麗、格好良いばっかり言っていたんだって」
「はは、それは似ているかもしれないね」
ヒュプノスは胸の前でそっと拳を握りしめる。噛み締めるように瞼を閉じて、短く息を吐くと深く吸い込む。グッと噛み締めた唇は、全てを飲み込んだ。
「そっか。それは、なんだか嬉しいね」
ヒュプノスは精一杯の笑みを浮かべて言葉を絞り出した。ジェマは思わず顔を上げてヒュプノスを見上げる。今にも泣き出してしまいそうなヒュプノスに、ジェマは躊躇うことなく道具を置いてヒュプノスの手を握る。
「ど、どうしたんですか?」
ヒュプノスはグッと全てを堪えたまま、黙って首を横に振った。伝えてはいけない、大きな真実。知ることができた大きな喜び。近いのに遠い、大きな寂しさ。
「大丈夫、じゃないよ? 私、何かしちゃった?」
ジェマまで泣きそうな顔で、大慌てする。2人の揺れる感情に、隣の部屋からドタバタと音がして、ジャスパー、ジェット、モアレ、ドルゲが飛び出してきた。
「どうした! ジェマ! こいつに何かされたか!」
「おい、俺の契約者がそんなことするわけねえだろ!」
「ピーピィ?」
「きゅきゅっ」
ジャスパーとドルゲは睨み合い、ジェットとモアレがジェマにしがみついてか細く心配の泣き声を上げる。その姿にジェマは慌ててジェットとモアレを抱き締める。
「だ、大丈夫だよ。私じゃなくて、ヒュプノスさんがね……」
「ドルゲ、僕は大丈夫だから。ただ、幸せを噛み締めていただけだから。ね?」
ヒュプノスがドルゲの肩に手を置くと、ドルゲは眉間に皺を寄せながらも頷いた。ジャスパーも鼻を鳴らすと、ジェマの肩に腰を下ろす。
「何もないなら、それで良い。だが、嬉しいことでも、共有して欲しいものだがな」
「へぇ、太古の精霊様は、かなり人間味があるようで」
ジャスパーの言葉にドルゲは顎を上げて挑発するようにジャスパーを見下ろした。その態度にムッとしたように前脚を組んだジャスパー。2人の睨み合いに、大きな感情に苛まれていたヒュプノスも呆れたように笑うしかなかった。
「ほら、ドルゲ。僕は大丈夫だから。ね?」
ヒュプノスに肩を叩かれて、ドルゲは肩をすくめる。そんなドルゲに、ジェマも大きく頷いてキラキラと輝くサファイア色の瞳で笑う。
「ジャスパーって結構お父さん感があるもん」
1人少しずれているジェマの答えに、ドルゲは目を丸くしてそれから吹き出す。お腹を抱えて笑うドルゲに、ヒュプノスもつられて笑う。ジャスパーはどこか不満げにジェマを見る。
「おい、我は精霊だぞ?」
「ん? 知ってるよ?」
きょとんとした顔のままジェットとモアレを撫でているジェマに、ジャスパーは思わず頭を抱えた。いつもは切れのあるジェマの思考が停止している様子にヒュプノスはくすっと笑う。
「なんだか、可愛いね」
「ジェマはなぁ、こうなるともう。駄目なんだ。本当に、賢い子なんだがなぁ」
頭を掻いたジャスパーにジェマは頬を膨らませる。その姿にすら嬉しそうに笑うヒュプノスに、ドルゲは肩の力が抜けたように右の口角を上げる。
その穏やかな空間をジェマの腕の中からジッと見ていたモアレは、身じろぎするとぴょんっとジェマの腕から飛び出す。
「モアレ?」
「きゅううーっ」
ゲロッとモアレの口から飛び出してきたのは、スコーチア。炎の身体が、唾液塗れでゴロッと転がり出す。
「ゴホゴホッ、な、なんだ? いきなり吐き出すなっ」
「おい、モアレ。そいつはまだ……」
精霊としての力の制御を学んでいる途中、ではあるが。あまりにも唾液塗れな姿にジェマは慌ててタオルを手に駆け寄って拭いてあげる。ヒュプノスとドルゲの表情は思わず引き攣ったけれど、モアレはやってやったと言いたげに胸を張る。
「モアレ、どうしたの?」
「きゅうきゅ」
首を振っている、ように身体を振るってみせるモアレ。その姿にジェマがスコーチアに視線を移すと、スコーチアは戸惑ったようにジェマの手からすり抜けてジェットのそばに寄った。




