第92話 開発への参加は決定済み
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王太子は、カイルを真っ直ぐに見た。
「アリス嬢とセドリックには、明日から代替魔道具の開発へ取り掛かるよう伝えてくれ」
「明日からですか?」
「既に準備は整っている。二人には、開発班の中心に入ってもらう」
アリスは、古代魔道具を見て、その仕組みを物理学の観点から考えることができる。
セドリックは、アリスの理論を理解し、必要な数値や構造へ落とし込める。
二人が代替魔道具の開発に欠かせないことは、カイルにも分かっていた。
「承知しました。二人には、私から伝えます」
「ああ。それから、開発班にはお前たちも加われ」
「私たちもですか?」
カイルとレオナルドの声が重なった。
「お前とレオナルド、それにマクシミリアンにも参加してもらう」
「お待ちください」
カイルは思わず聞き返した。
「アリス嬢とセドリックは分かります。王立研究所の研究員が加わるのも当然でしょう。しかし、なぜ私たちまで?」
王太子は答える代わりに、先ほど読んでいた視察報告書を持ち上げた。
「王宮の門へ、取水門の歯車と釣り合い重りを応用する案」
カイルが黙る。
「それを思いついたのは、お前だ」
「……使えるのではないかと、口にしただけです」
王太子は次のページを開いた。
「温風送風装置を、騎士団の防具や馬具の乾燥へ利用する案」
今度はレオナルドを見る。
「それは、兄が喜ぶだろうと呟いただけです」
「その一言から、騎士団、貴族の屋敷、王宮、村の保存食、書庫へと用途が広がっている」
レオナルドは視線を逸らした。
「マクシミリアンは、革を直接火へ近づけると傷むことを指摘した。その知識がなければ、温風送風装置は生まれなかったかもしれない」
「ですが、それは騎士として革製の防具や馬具を扱ってきた経験です。古代魔道具の開発とは違うのではありませんか?」
「違わない」
王太子は即座に否定した。
「研究員だけでは、理論や古代魔道具の構造へ目が向きやすい。だが、新たな装置を作るには、実際に使う者の視点や、別の分野へ応用する発想も必要だ」
王太子は、木箱へ収められた大量の報告書を指した。
「この報告書を読めば、それがよく分かる。アリス嬢とセドリックが問題を解決し、お前たちが別の使い道や新たな危険性を見つけている」
「私たちは、そこまで意識していたわけでは……」
「意識せずに、これだけの案件を増やしたのか?」
カイルは言葉に詰まった。
「古代魔道具の代わりを作るには、これまでにない発想が必要になる。その発想力が役立つかもしれん」
王太子は、まずカイルを見る。
「カイル。お前には、各部署の意見をまとめ、開発の方向を判断してもらう」
続いて、レオナルドへ視線を移す。
「レオナルドは、調査記録や文献、研究員から上がってくる情報の整理だ。異なる情報同士を結び付け、新たな可能性を見つけてほしい」
最後に、ここにはいないマクシミリアンの名が挙げられる。
「マクシミリアンには、装置の安全性と、実際に使用する者の立場から意見を出してもらう。アリス嬢たちが見落とした危険に、最初に気づくことが多いのも彼だろう」
カイルの脳裏に、揚水装置から噴き出した水を真正面から浴び、泥の中へ沈んだマクシミリアンの姿が浮かんだ。
「気づくというより、誰よりも先に巻き込まれているような気がしますが」
「だからこそ、危険を予測する側へ回ってもらう」
もっともらしい言葉だった。
だが、マクシミリアン本人が聞けば、きっと納得しないだろう。
「以上が、決定した開発体制だ」
「既に決定しているのですか?」
「ああ。古代魔道具の開発については、陛下から全権を任されている」
「私たちの意見を聞く前に?」
「断るつもりなのか?」
王太子の問いに、カイルとレオナルドは顔を見合わせた。
古代魔道具が、ベレニケ領を火山の脅威から守っている。
その代わりとなる装置の開発が、王国にとって必要であることは理解していた。
さらに、その装置は王国内の火山地帯を守り、今後必要となる火の魔石を生み出す可能性もある。
断れるはずがない。
「……承知しました」
「私も、できる限り協力いたします」
二人の返事を聞き、王太子は満足そうに頷いた。
「では、アリス嬢、セドリック、マクシミリアンへ伝えてくれ。明朝、王立研究所の開発室へ集合だ」
「分かりました」
王太子は再び、積み上げられた木箱へ目を向ける。
「視察報告書の整理も忘れるな。代替魔道具の開発とは別に、こちらの優先順位も決めてもらう」
カイルとレオナルドも、つられるように木箱の山を見た。
視察で増やした、当初予定の十倍以上に及ぶ案件。
それらを実現するために必要となる、膨大な量の火の魔石。
さらに明日からは、その供給問題まで解決する可能性を持つ、古代魔道具の代替品開発が始まる。
王都へ戻れば、少しは休めると思っていた。
どうやら、それは大きな間違いだったらしい。
こうして、ベレニケ領を守るために始まった代替魔道具の開発は、王国内の火山地帯を安定させ、火の魔石を供給するための国家事業へ発展することになった。
そして、視察先で新たな用途や危険性を見つけたカイル、レオナルド、マクシミリアンも、その発想力と現場での知見を王太子に評価され、正式に開発班へ加えられることになったのである。




