第91話 代替魔道具のもう一つの役割
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王太子は、積み上げられた視察報告書へ目を向けた。
「だが、この報告書を見て、代替魔道具に担わせるべきもう一つの役割が明確になった」
「必要な役割?」
王太子は、まとめられた視察報告書を開く。
「例えば温風送風装置には、空気を温めるための火の魔石が必要だ。工房の革帯を乾かす小型のものだけなら、大した量ではないだろう」
ページをめくる。
「だが、騎士団の装備を乾かす大型乾燥室。貴族の屋敷や王宮で洗濯物を乾かす設備。村で保存食を作るための乾燥装置。書庫から湿気を取り除く送風設備」
報告書には、それぞれの装置に必要となる火の魔石の数量も、今後の調査項目として記録されていた。
「これらを実際に作り、さらに王国各地へ広げるのであれば、必要となる火の魔石は膨大な量になる」
カイルは、積み上げられた木箱を見る。
報告書の中には、温風送風装置以外にも、火の魔石を利用する改良案がいくつも収められている。
物理道具が普及すればするほど、それを動かすための魔石も必要になる。
「現在は、王立研究所で開発された術式を使い、火の魔石を生成しています」
レオナルドが言う。
「ああ。しかし、あの術式で一度に生成できる量には限りがある」
王太子は、火の魔石の生産量と使用量をまとめた資料を二人へ渡した。
「王立研究所で生成できる量だけでは、ここに記された全ての設備を動かすには足りない。ベレニケ領の古代魔道具によって生成される火の魔石を加えても、将来的な需要を満たせないという試算が出ている」
「ベレニケ領の分を加えてもですか?」
「ああ。しかも、これは視察報告書に記載された案だけを実現した場合の試算だ。物理道具がさらに国中へ広がれば、火の魔石を必要とする場所も増えていく」
「では、せっかく新しい物理道具を作っても、動かすための火の魔石が足りなくなる可能性があると?」
「そのとおりだ」
王太子は、王国の地図を机の上へ広げ、ベレニケ領だけでなく、王国内に存在する複数の火山地帯へ印を付けていった。
「だからこそ、古代魔道具に代わる装置を開発する必要がある」
王太子は、地図の印を順番に指した。
「完成した代替魔道具をベレニケ領だけでなく、王国内の火山地帯へ設置する。地下から上昇するエネルギーを安全に取り出し、火の魔石へ変換するのだ」
カイルは、その意味を理解した。
「火山活動を抑えると同時に、火の魔石を生成するのですか?」
「ああ。それが実現すれば、火山周辺の危険を減らしながら、今後必要となる火の魔石も確保できる」
ベレニケ領を守るための代替魔道具。
それだけでも、王国にとって極めて重要な開発である。
だが、同じ装置をほかの火山地帯へ設置できれば、王国全体へ火の魔石を供給する、新たな仕組みにもなり得る。
「もちろん、全ての火山がベレニケ領と同じ状態とは限らない」
王太子が続ける。
「地下から上昇するエネルギーの量、地盤、噴火の危険性は場所によって異なる。装置を設置する前に、各地で十分な調査が必要だ」
「まずはベレニケ領の古代魔道具を参考に、試作機を完成させることが先ですね」
「ああ。その試作機で、取り出すエネルギーの量を調整できるか、安全に火の魔石へ変換できるかを確認する」




