第90話 国家機密と代替魔道具
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王太子は、積み上げられた木箱から視線を外すと、表情を改めた。
「ひとまず視察報告についてはここまでだ。ここからは、重大な話になる」
カイルとレオナルドも姿勢を正す。
王太子は、執務机の引き出しから別の書類を取り出した。
「私が一足先に王宮へ戻った後、陛下をはじめ、宰相、王立研究所長、王宮魔道具管理局長、宮廷図書館長、騎士団長を集めて会議を行った」
「洞窟の古代魔道具についてですか?」
「ああ。調査で判明した事実は、全て報告した」
王太子は、洞窟で確認された内容を改めて説明していく。
洞窟最深部に築かれていた祭壇。
地下深くから流れ込む、莫大なエネルギー。
そのエネルギーから、火の魔石を生成する仕組み。
そして、古代魔道具が今も稼働を続けることで、ベレニケ領の火山活動が抑えられている可能性。
どれも、事実が広まれば領民だけでなく、王国全体へ大きな不安を与えかねない内容だった。
「陛下の命により、本件は国家機密となった。全容を知る者は、必要最小限にとどめる」
「承知しました」
「各部署には、それぞれの役目を果たすために必要な情報だけを伝える。研究員には調査と解析、司書には文献の収集、騎士には古代魔道具と関連施設の警備だ」
王太子は机の上へ一枚の書類を広げた。
そこには、既に決定された各部署の役割が記されている。
「王立研究所は、解析班と代替魔道具開発班の二班へ再編した。解析班は、洞窟で得られた調査記録と、王宮の宝物庫に保管されている古代魔道具を調べる」
「宝物庫の古代魔道具もですか?」
「ああ。王宮魔道具管理局へ命じ、古代文明のものと思われる魔道具を選別させている。安全に移動できるものから、順次、研究所へ搬入する予定だ」
「宮廷図書館では、古代文明に関する文献の調査が始まっているのですね」
レオナルドが尋ねる。
「既に始まっている。年代や内容を問わず、関係する可能性のある文献は全て集めさせている。各地の貴族や修道院が保管している記録についても、今後調査する予定だ」
王太子は別の書類を示した。
そこには、王立研究所内に用意された区画と、配置される研究員や職人の人数が記されていた。
「代替魔道具の開発に必要な場所、人員、予算も確保した。研究所内に専用の開発室を設け、魔石、金属、耐熱材など、現時点で必要と思われる材料も集めさせている」
「随分と早いですね」
「いつまで古代魔道具が動き続けるのか、誰にも分からないからな」
王太子の声が低くなる。
「今も正常に動いているように見えるからといって、明日も同じとは限らない。故障してから代わりを作り始めたのでは遅い」
カイルとレオナルドは、何も言わずに頷いた。
ベレニケ領の地下に蓄えられる、莫大なエネルギー。
それを処理している古代魔道具が停止すれば、何が起こるのか正確には分かっていない。
だが、決して小さな被害では済まないことだけは明らかだった。
「ただし、現存する古代魔道具には、可能な限り手を加えない」
王太子は続けた。
「構造を調べるために分解し、元へ戻せなくなれば本末転倒だ。まずは調査記録や他の古代魔道具、文献を用いて仕組みを推定する」
「その上で、現在の古代魔道具を止めずに、別の装置を作るということですね」
「ああ。完全に同じものを再現する必要はない。最優先すべきは、地下から流れ込むエネルギーを受け止め、安全な形へ変換することだ」




