第80話 馬車の中は甘すぎる
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※本日の更新ですが、予約投稿がきちんと設定できておらず、いつもより約二時間遅れてしまいました。
更新をお待ちくださっていた皆様、申し訳ありませんでした。
次回からは通常どおり、午前五時に更新予定です。
六人が馬車へ乗り込むと、リリィは持っていた籠を膝の上へ置いた。
「今朝、厨房をお借りしてお菓子を焼いたんです。皆様、どうぞ。」
籠の中には、小さな焼き菓子がきれいに並べられていた。
「リリィ嬢が作ったのか。それは楽しみだな。」
カイルが一つ手に取る。
アリスとセドリック、レオナルドも、それぞれ焼き菓子を受け取った。
リリィは最後の一つを手に取ると、隣に座るマクシミリアンの口元へ差し出した。
「マクシミリアン様。はい、あーん。」
「あーん。」
マクシミリアンは何も考えずに口を開け、そのまま焼き菓子を受け入れた。
何度か噛んだところで、向かい側に座る三人と目が合う。
アリス、セドリック、カイルが、揃ってこちらを見ていた。
レオナルドも、焼き菓子を持ったまま動きを止めている。
(しまった!)
二人きりの時の癖で、つい口を開けてしまった。
マクシミリアンは口の中の焼き菓子を飲み込みながら、気まずそうに目を逸らす。
その隣で、リリィだけは嬉しそうに笑っていた。
一方、セドリックは何かを期待するようにアリスを見つめていた。
その視線に気づいたアリスの頬が、見る見る赤くなっていく。
アリスは手元の焼き菓子を見た後、意を決したようにセドリックへ差し出した。
「セドリック様。口を開けてくださいませ。」
「はい。」
セドリックは素直に口を開ける。
「……あーん。」
アリスが焼き菓子を口へ入れると、セドリックは幸せそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。とてもおいしいです。」
「焼いたのはリリィ様ですわ。」
「ですが、あなたに食べさせていただいたので、さらにおいしく感じます。」
アリスの顔が、さらに赤くなった。
「まあ、まあ、まあ!」
リリィが嬉しそうにはしゃぐ。
その横で、マクシミリアンはいたたまれない気持ちになっていた。
自分が余計なことをしたせいで、目の前にさらに甘い空気が生まれてしまった。
「「……」」
カイルとレオナルドは、揃って無言になった。
(何をしてくれているんだ、マクシミリアン!)
カイルは恨めしそうにマクシミリアンを見る。
すると、それまで黙っていたレオナルドが口を開いた。
「マクシミリアン殿、リリィ嬢。」
「何だ?」
「王都へ戻りましたら、今度、私の婚約者も交えてお茶会をしませんか?」
「お茶会?」
マクシミリアンが首を傾げる。
「私は構わないが……。」
「まあ! でしたら、たくさんお菓子を焼かなくてはいけませんわね!」
リリィは早くも、何を作ろうかと考え始めている。
カイルはレオナルドを見た。
(こいつ、自分も婚約者にあーんをしてもらうつもりだな!)
その視線に気づいたレオナルドは、そっと窓の外へ顔を向けた。
どうやら図星らしい。
「レオナルド殿。」
今度はセドリックが声を掛ける。
「そのお茶会には、私たちも参加してよろしいでしょうか?」
「もちろんですわ!」
レオナルドが答えるよりも先に、リリィが満面の笑みで了承した。
「アリス様とセドリック様もご一緒なら、きっと楽しいお茶会になりますわ!」
「楽しみですね、アリス嬢。」
「はい……。」
アリスは赤い顔のまま、小さく頷いた。
カイルは一人、窓の外を眺める。
視察先へ到着するまで、あと一時間。
今すぐ別の馬車へ移りたかった。
こうして、再び、二組のバカップル合戦が始まったのである。
しかも、早くも三組目まで加わろうとしていた。




