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無自覚転生令嬢の物理魔法  作者: 深谷 汎
第二部 第5章 ベレニケ領 と 古代魔道具

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第80話 馬車の中は甘すぎる

※毎日 朝5時に予約投稿で更新中


※本日の更新ですが、予約投稿がきちんと設定できておらず、いつもより約二時間遅れてしまいました。

更新をお待ちくださっていた皆様、申し訳ありませんでした。

次回からは通常どおり、午前五時に更新予定です。

六人が馬車へ乗り込むと、リリィは持っていた籠を膝の上へ置いた。


「今朝、厨房をお借りしてお菓子を焼いたんです。皆様、どうぞ。」


籠の中には、小さな焼き菓子がきれいに並べられていた。


「リリィ嬢が作ったのか。それは楽しみだな。」


カイルが一つ手に取る。


アリスとセドリック、レオナルドも、それぞれ焼き菓子を受け取った。


リリィは最後の一つを手に取ると、隣に座るマクシミリアンの口元へ差し出した。


「マクシミリアン様。はい、あーん。」


「あーん。」


マクシミリアンは何も考えずに口を開け、そのまま焼き菓子を受け入れた。


何度か噛んだところで、向かい側に座る三人と目が合う。


アリス、セドリック、カイルが、揃ってこちらを見ていた。


レオナルドも、焼き菓子を持ったまま動きを止めている。


(しまった!)


二人きりの時の癖で、つい口を開けてしまった。


マクシミリアンは口の中の焼き菓子を飲み込みながら、気まずそうに目を逸らす。


その隣で、リリィだけは嬉しそうに笑っていた。


一方、セドリックは何かを期待するようにアリスを見つめていた。


その視線に気づいたアリスの頬が、見る見る赤くなっていく。


アリスは手元の焼き菓子を見た後、意を決したようにセドリックへ差し出した。


「セドリック様。口を開けてくださいませ。」


「はい。」


セドリックは素直に口を開ける。


「……あーん。」


アリスが焼き菓子を口へ入れると、セドリックは幸せそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。とてもおいしいです。」


「焼いたのはリリィ様ですわ。」


「ですが、あなたに食べさせていただいたので、さらにおいしく感じます。」


アリスの顔が、さらに赤くなった。


「まあ、まあ、まあ!」


リリィが嬉しそうにはしゃぐ。


その横で、マクシミリアンはいたたまれない気持ちになっていた。


自分が余計なことをしたせいで、目の前にさらに甘い空気が生まれてしまった。


「「……」」


カイルとレオナルドは、揃って無言になった。


(何をしてくれているんだ、マクシミリアン!)


カイルは恨めしそうにマクシミリアンを見る。


すると、それまで黙っていたレオナルドが口を開いた。


「マクシミリアン殿、リリィ嬢。」


「何だ?」


「王都へ戻りましたら、今度、私の婚約者も交えてお茶会をしませんか?」


「お茶会?」


マクシミリアンが首を傾げる。


「私は構わないが……。」


「まあ! でしたら、たくさんお菓子を焼かなくてはいけませんわね!」


リリィは早くも、何を作ろうかと考え始めている。


カイルはレオナルドを見た。


(こいつ、自分も婚約者にあーんをしてもらうつもりだな!)


その視線に気づいたレオナルドは、そっと窓の外へ顔を向けた。


どうやら図星らしい。


「レオナルド殿。」


今度はセドリックが声を掛ける。


「そのお茶会には、私たちも参加してよろしいでしょうか?」


「もちろんですわ!」


レオナルドが答えるよりも先に、リリィが満面の笑みで了承した。


「アリス様とセドリック様もご一緒なら、きっと楽しいお茶会になりますわ!」


「楽しみですね、アリス嬢。」


「はい……。」


アリスは赤い顔のまま、小さく頷いた。


カイルは一人、窓の外を眺める。


視察先へ到着するまで、あと一時間。


今すぐ別の馬車へ移りたかった。


こうして、再び、二組のバカップル合戦が始まったのである。


しかも、早くも三組目まで加わろうとしていた。

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