表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無自覚転生令嬢の物理魔法  作者: 深谷 汎
第二部 第5章 ベレニケ領 と 古代魔道具

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/89

第79話 二組のバカップル

※毎日 朝5時に予約投稿で更新中

夕食会が終わりに近づくと、カイルは明日の予定を確認するため、全員へ声を掛けた。


「明日からは、本来の目的である物理道具の視察を開始する。最初に向かうのは、領都近郊の農地だ。」


「農地ですか!」


アリスの瞳が輝く。


「それなら、揚水装置と農具の使用状況を確認できますわね。実際の作業効率や故障の頻度も調べたいです。」


「私も同行します。現場で問題点が見つかれば、その場で改良案をまとめましょう。」


セドリックもすぐに応じた。


ほんの数秒前まで婚約者らしく手を握っていた二人は、既に明日の視察について真剣な顔で話し始めている。


その様子を見ながら、カイルは小さく溜息を吐いた。


婚約者になって、二人の距離は確かに近くなった。


だが、どれほど距離が近づこうとも、二人の中心にあるものは、やはり物理学らしい。


明日の視察が無事に終わることを願いながら、カイルは二人の会話を黙って見守った。


◇ ◇ ◇

翌朝。


ベレニケ伯爵邸の前には、視察へ向かう一行のために数台の馬車が用意されていた。


今日からようやく、当初の目的であった物理道具の視察が始まる。


最初に向かうのは、領都から馬車で一時間ほどの場所にある農村だった。


「アリス嬢。どうぞ。」


馬車へ乗り込もうとしたアリスの前へ、セドリックが手を差し出した。


アリスは差し出された手と、セドリックの顔を交互に見る。


「一人で乗れますわ。」


「知っています。」


「では、なぜ手を?」


「あなたの手を握る機会が欲しかったのです。」


あまりにも素直な答えに、アリスは僅かに目を見開いた。


その頬が、少しずつ赤くなっていく。


「馬車へ乗る際の補助は、手を握るための口実だったのですか?」


「はい。」


セドリックは悪びれることなく頷いた。


「婚約者になったのですから、これまでよりも多く、あなたに触れたいと思っています。」


「そうなのですね……。」


アリスは自分の胸元へ手を当てる。


また心拍数が上がっている。


だが、昨夜と同じく不快ではなかった。


「では、その機会を有効に使ってくださいませ。」


アリスはそう言うと、素直にセドリックの手を取った。


「まあ……!」


少し離れた場所で二人を見ていたリリィが、うっとりとした声を上げる。


「「「……」」」


その隣では、マクシミリアン、カイル、レオナルドの三人が、揃って無言になっていた。


やがてアリスが馬車へ乗り込むと、次はリリィの番になった。


リリィは馬車の前まで進んだところで足を止め、期待のこもった瞳でマクシミリアンを見つめる。


「……何だ?」


「いえ、何でもありませんわ。」


そう答えながらも、リリィはセドリックがアリスへ手を差し出した場所へ、ちらりと視線を向けた。


その意味を察したマクシミリアンは、セドリックを見る。


ただ手を差し出すだけでは、同じことを真似したと思われるかもしれない。


それは、何となく面白くなかった。


「リリィ、失礼する。」


「え?」


マクシミリアンはリリィの背中と膝の下へ腕を回すと、その身体を軽々と抱き上げた。


「きゃっ!」


驚いたリリィが、慌ててマクシミリアンの首へ腕を回す。


そのまま彼女をお姫様抱っこで馬車まで運ぶと、座席へそっと下ろした。


「これでよいか?」


「はい! ありがとうございます、マクシミリアン様!」


リリィは頬を赤く染めながら、満面の笑みを浮かべた。


満足そうに胸を張るマクシミリアンを見て、セドリックが羨ましそうに呟く。


「その方法がありましたか。」


「え?」


馬車の窓から顔を覗かせていたアリスが、セドリックを見る。


「次からは、私もあなたを抱き上げて馬車へお乗せします。」


「分かりましたわ。」


アリスは僅かに頬を赤くしながらも、素直に頷いた。


そのやり取りを聞いたカイルとレオナルドは、何とも複雑な表情でマクシミリアンを見る。


(マクシミリアン。なぜ余計なことを教えた……!)


(これ以上、セドリック殿を積極的にしてどうするのですか……!)


二人の心の声は、見事に同じ意味を持っていた。


しかし、リリィに喜んでもらえたマクシミリアンは、二人の視線になど全く気づいていなかった。


こうして、誰も頼んでいない二組のバカップル合戦が始まったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ