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無自覚転生令嬢の物理魔法  作者: 深谷 汎
第二部 第5章 ベレニケ領 と 古代魔道具

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第77話 事の重大さに気づいた男たち

※毎日 朝5時に予約投稿で更新中

「一人では届かない場所へ、二人で辿り着きたいのです。」


セドリックの言葉が、マクシミリアンの頭の中で繰り返された。


(……待て。)


セドリックは、アリスを止めると言っただろうか。


言っていない。


アリスが新しい理論を生み出したら、自分が形にすると言った。


一人ではできないことを、二人で実現すると言った。


マクシミリアンの脳裏に、これまでの出来事が次々と蘇る。


アリスの理論を一瞬で理解し、勝手に改良してしまったセドリック。


アリスが危険な実験を提案すると、止めるどころか目を輝かせて実験方法を考え始めたセドリック。


そして二人の実験が始まると、なぜか毎回、自分が標的にされる。


(違う!)


セドリックは、自分の代わりにアリスの実験を引き受けてくれる人間ではない。


アリスと一緒になって、さらに危険な実験を完成させる人間だ。


もし、この二人が婚約したら。


アリスの発想力と、セドリックの実行力が常に一緒になる。


(今よりも危険になるではないか!!)


マクシミリアンの顔から血の気が引いた。


「ちょ、ちょっと待――」


その時、カイルも同じことに気づいた。


(……誰が二人を止めるんだ?)


これまでは、アリスが暴走した時はセドリックに止めさせ、セドリックがアリスのことで暴走した時は、自分が止めてきた。


だが、二人が婚約したらどうなる。


アリスが理論を考える。


セドリックが完成させる。


アリスが実験をしたがる。


セドリックが実験環境を整える。


互いに止めるどころか、二人だけでどんどん話を進めてしまう。


しかもセドリックは、アリスの安全さえ確保できれば、どれほど危険な実験でも許可しかねない。


(まずい! 二人を婚約させてはいけない!)


カイルは慌てて立ち上がった。


「アリス嬢、少し待――」


「セドリック様。」


アリスが口を開いた。


マクシミリアンとカイルの動きが止まる。


「先ほどから、心拍数が上がっています。」


アリスは空いている手を、自分の胸へ当てた。


「顔も熱いですし、思考もうまくまとまりません。」


「大丈夫ですか?」


セドリックが心配そうに聞く。


アリスは自分の状態を確認するように、しばらく黙り込んだ。


「ですが、不快ではありません。」


そして、セドリックへ微笑みかける。


「私も、セドリック様となら、一人では辿り着けない場所へ行けると思います。」


「アリス嬢……。」


「その婚約の申し入れ、お受けいたします。」


「待てぇぇぇっ!!」


「待ってくれ、アリス嬢!!」


マクシミリアンとカイルの叫びが、見事に重なった。


しかし、遅かった。


セドリックの求婚を、アリスは既に受け入れてしまった。


「どうなさいましたか?」


アリスが不思議そうに二人を見る。


「どうしたも何もない! お前たちが婚約したら、今まで以上に危険な実験が増えるではないか!」


「なぜ増えるのです?」


「本気で分かっていないのか!?」


マクシミリアンは頭を抱えた。


カイルは、すぐにセドリックへ確認する。


「セドリック。アリス嬢が危険な実験を始めようとした時は、婚約者としてきちんと止めるのだろうな?」


「もちろんです。」


「そうか……。」


カイルが安堵しかける。


「アリス嬢が危険な目に遭わないよう、私が理論を完成させ、十分な防護設備を整えます。」


「実験そのものを止めろと言っているんだ!!」


カイルの叫びが応接室に響いた。


それを聞いたヨハンも、ようやく問題に気づく。


(待てよ……。)


これまで家族総出でも、アリスを止められなかった。


そのアリスに、理論を理解し、実現できる婚約者ができてしまった。


(もしかして、僕はとんでもない婚約を祝福してしまったのでは?)


「父上、母上。」


「どうした、ヨハン。」


「今からでも、もう少し慎重に考えた方が……。」


「ヨハン兄様まで、どうなさったのですか?」


「アリスは何も心配しなくていいよ。」


ヨハンは笑顔を作ったが、その額には冷たい汗が浮かんでいた。


レオナルドも、婚約後の未来を考え始める。


アリスが新しい理論を考え、セドリックが実用化する。


カイルが王太子へ報告し、王太子が国家事業として採用する。


そして、そのために必要な予算、人員、各部署との調整は――。


(王太子殿下の側近である、私の仕事になるのでは?)


レオナルドは静かに天井を見上げた。


「レオナルド?」


カイルが声を掛ける。


「カイル殿下。一つ、お願いがございます。」


「なんだ?」


「今後、お二人が新たな実験を始める際は、できる限り早く私へお知らせください。」


「なぜだ?」


「王太子殿下が国家事業にすると言い出す前に、必要となる予算と人員を見積もっておきます。」


カイルとレオナルドは、しばらく無言で見つめ合った。


やがて二人は、互いの苦労を理解したように固く握手を交わした。


「これから大変になるな。」


「はい。共に頑張りましょう。」


そんな男たちの絶望には全く気づかず、リリィは涙を拭いながら満面の笑みを浮かべていた。


「本当におめでとうございます、アリス様! お二人なら、きっと世界を変えるような素晴らしいご夫婦になれますわ!」


その言葉に、カイル、マクシミリアン、ヨハン、レオナルドの四人が同時に固まる。


世界を変える。


この二人の場合、ただの褒め言葉では済まされない。


本当に世界を変えてしまう可能性がある。


そして、その過程で誰が巻き込まれるのか。


四人は、それぞれの未来を想像し、揃って遠い目をした。


こうして、アリスとセドリックの婚約は、本人たちと両親の同意によって無事に成立した。


それは同時に――『混ぜるな危険』の二人を、混ぜてしまった瞬間でもあった。

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