第73話 ぞれぞれの役目
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洞窟から戻った一行は、そのままベレニケ伯爵邸へと足を運んだ。
応接室にはベレニケ伯爵夫妻が待っており、王太子は洞窟で判明した内容を簡潔に報告する。
古代魔道具がベレニケ領を守り続けてきたこと。
そして、今後は王国として対策を講じる必要があること。
一通り報告を聞き終えたベレニケ伯爵は、静かに頭を下げた。
「王国のお力添えに、心より感謝申し上げます。」
「礼には及ばぬ。」
王太子は穏やかに首を横へ振る。
「この問題は、もはやベレニケ領だけのものではない。王国全体で取り組むべき課題だ。」
そう言うと、一同を見渡した。
「洞窟でも話したとおり、私は王立研究所の研究員を連れて王都へ戻る。」
「王宮宝物庫に保管されている古代魔道具や古文書を調査し、代替となる魔道具の開発体制を整える。」
研究員たちは真剣な表情で頷いた。
王太子は続けてカイルへ視線を向ける。
「カイル。」
「はい。」
「視察団の指揮は、引き続きお前に任せる。」
「今回の本来の目的は、ベレニケ領で実際に使われている物理道具の視察だ。」
「領民がどのように活用し、どのような成果を上げているのか。改善すべき点も含め、詳しく調査してくれ。」
「承知しました。」
力強い返事に、王太子は満足そうに頷く。
続いて、隣に控えるレオナルドへ視線を移した。
「レオナルド。」
「はっ。」
「お前は視察団へ残れ。」
一瞬だけレオナルドの表情が引き締まる。
王太子は続けた。
「カイルを補佐し、視察結果を整理して王都へ持ち帰れ。」
「物理道具の普及は、これからの王国にとって重要な施策となる。」
「現場でしか得られない情報を、一つでも多く集めてほしい。」
「御意。」
レオナルドは深く一礼した。
「必ずや、ご期待に沿う成果をご報告いたします。」
「頼んだ。」
短い言葉だったが、その一言には側近への揺るぎない信頼が込められていた。
王太子は今度はセドリックへ目を向ける。
「セドリック。」
「はい。」
「護衛はこれまでどおり任せる。」
「万一の際は、カイルの判断を最優先としろ。」
「承知いたしました。」
最後に王太子は懐から一枚の魔法紙を取り出し、カイルへ差し出した。
「これは王宮転移陣の座標だ。」
「通常は持ち出しを許可していないが、今回は特別に預ける。」
「視察を終えたら、この座標を使って王宮へ直接転移してこい。」
「時間を無駄にする必要はない。」
カイルは慎重に受け取り、胸元へしまった。
「ありがとうございます。」
王太子は満足そうに頷くと、研究員たちへ声を掛ける。
「では、王都へ戻る。」
研究員たちが王太子の周囲へ集まり、転移魔法陣が足元に展開された。
眩い光が部屋を包み込み、次の瞬間には王太子と研究員たちの姿は消えていた。
静寂が戻る。
カイルは一同を見回し、小さく息を吐く。
「さて。」
「こちらも予定どおり進めよう。」
「明日から領内を巡り、物理道具の視察を開始する。」
「使う人の声を聞き、改良できるところは改良する。それが今回の任務だ。」
「はい。」
アリスは自然と笑みを浮かべた。
自分が考えた道具が、領民の暮らしの中でどのように役立っているのか。
それをこの目で確かめられる。
研究者として、これほど楽しみなことはなかった。




