第72話 古代魔道具の真の役割
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しばらくの間、誰も口を開かなかった。
洞窟内には静寂だけが流れ、全員の視線は祭壇へと向けられている。
やがて、その沈黙を破ったのは王太子だった。
「皆の話を聞いて、一つ確信したことがある。」
その言葉に全員が王太子へ視線を向ける。
「この古代魔道具は、過去の遺物ではない。」
王太子は静かに祭壇へ歩み寄った。
「今この瞬間も、ベレニケ領を守り続けている魔道具だ。」
誰も異論を唱えなかった。
これまでの調査結果が、その言葉を裏付けている。
地下から絶えず流れ込む莫大なエネルギー。
余剰エネルギーを閉じ込めた火の魔石。
そして、洞窟内に無数に残されていた、魔力を失った魔石。
それらは、この祭壇が長い年月にわたり働き続けてきた何よりの証拠だった。
王太子はゆっくりと振り返る。
「だが、それ故に問題がある。」
「問題……ですか。」
リリィが小さく呟く。
「もし、この古代魔道具が停止したらどうなる。」
その問いに、一瞬の沈黙が流れた。
セドリックが口を開く。
「地下のエネルギーを吸収できなくなります。」
「やがて地下へ蓄積され続けるでしょう。」
「その結果――。」
「火山活動が再び始まる可能性があります。」
アリスが静かに言葉を引き継いだ。
王太子は力強く頷く。
「そうだ。」
「ベレニケ領は、再び人が住めない土地へ戻ってしまうかもしれない。」
その場の空気が重くなる。
今まで仮説として語られていた話が、一つの現実味を帯び始めていた。
「ならば、我々のやるべきことは一つだ。」
王太子の声に迷いはなかった。
「この古代魔道具に頼り切るわけにはいかない。」
「王都へ戻り次第、この古代魔道具と同じ働きを持つ魔道具の開発を開始する。」
研究員たちの表情が引き締まる。
「万が一、この古代魔道具が停止しても、すぐに代替できる体制を整える。」
「それが王国として果たすべき責務だ。」
「殿下。」
セドリックが一歩前へ出た。
「そのためには、まずこの古代魔道具の仕組みを解明しなければなりません。」
「ああ。」
王太子は頷いた。
「祭壇の調査を続ける。」
「ただし、決して損傷を与えてはならない。」
「今、この魔道具がベレニケ領を守っている可能性が高い以上、僅かな損傷も許されない。」
「研究員は測定を中心に調査を進めよ。」
「承知いたしました。」
研究員たちは測定器を手に、祭壇の各所を慎重に調べ始めた。
アリスたちも調査へ加わる。
祭壇の土台。
刻まれた紋様。
地下へ伸びる導管。
魔力の流れ。
一つひとつ確認し、図面へと記録していく。
「こちらの導管は、中央部へ集まっています。」
「魔力の流れにも規則性があります。」
「この部分は、他とは違う構造ですね。」
次々と報告が上がる中、アリスは祭壇の一角で足を止めた。
視線は、複雑に組み合わされた内部構造へ向けられている。
「……あれ?」
小さく漏れた声に、近くにいたセドリックが顔を上げた。
「どうかしましたか。」
「いえ……。」
アリスは首を横に振る。
「何か違和感があるのですが……。」
もう一度、図面へ目を落とす。
導管の配置。
魔力の流れ。
変換部と思われる構造。
どれも初めて見るもののはずなのに、不思議と見覚えがあるような感覚が胸をよぎった。
「気のせい……でしょうか。」
そう呟いたアリスは、もう一度祭壇へ目を向ける。
しかし、その違和感の正体を掴むことはできなかった。
「殿下、一通りの調査が終了しました。」
研究員の報告に、王太子は静かに頷く。
「ご苦労だった。本日の調査はここまでとする。」
研究員たちは慎重に測定器を片付け始める。
王太子は最後に祭壇を見つめた。
「王都へ戻る。」
「ここで得られた資料を基に解析を進めると同時に、王宮宝物庫に保管されている古代魔道具や文献についても調査を行う。」
「この古代文明の技術を、必ず解き明かす。」
その言葉を胸に、一行は静かに洞窟を後にした。
祭壇は何も語ることなく、これまでと変わらず地下のエネルギーを受け止め続けていた。




