第71話 祭壇の真実
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翌日、調査隊は再び『火竜の顎』を訪れた。
今回は祭壇そのものではなく、地下のエネルギーを吸収し、火山活動を抑える装置であるという仮説を前提に調査が進められる。
「昨日は祭壇ばかり調べていましたが、今日は周囲も詳しく調べてください。」
アリスの一言で、研究員たちは祭壇だけではなく、洞窟全体へと調査範囲を広げた。
しばらくすると、一人の研究員が足を止める。
「……これは?」
岩陰に、小さな赤黒い石が転がっていた。
「火の魔石か?」
王太子が拾い上げる。
だが、祭壇で生成されていた鮮やかな赤色とは違い、その魔石は色褪せ、ほとんど輝きを失っていた。
研究員が測定器をかざす。
「魔力反応……ほぼありません。」
「魔力が抜け切っています。」
その時だった。
「こちらにもあります!」
「こちらにもです!」
洞窟のあちこちから次々と声が上がる。
岩陰。
壁際。
石の隙間。
調べれば調べるほど、同じように魔力を失った火の魔石が見つかっていく。
マクシミリアンは一つ拾い上げ、不思議そうに眺めた。
「これほど大量に……。」
アリスは足元に転がる魔力を失った魔石を拾い上げた。
「皆様、この魔石をご覧ください。内部の魔力は、長い年月をかけて自然に失われたものと思われます。」
「自然に?」
セドリックが聞き返す。
アリスは頷いた。
「魔石も永久に魔力を蓄えられるわけではありません。使わなくても、長い年月をかけて少しずつ魔力は抜けていきます。」
「つまり、寿命があるということか。」
カイルが呟く。
「ええ。」
アリスは周囲を見渡した。
「そして、この数です。」
洞窟の隅。
岩陰。
壁際。
注意して見れば、魔力を失った魔石が至る所に転がっている。
「これほど大量に残されているということは……。」
マクシミリアンが静かに口を開く。
「意図的に捨てられていた。」
「その可能性が高いですわ。」
アリスは力強く頷いた。
「古代文明にとって魔石は目的ではありません。」
「火山活動を抑えるため地下から吸い上げたエネルギーを、安全な形へ変換した結果に過ぎなかったのでしょう。」
「つまり……。」
王太子が言葉を続ける。
「魔石は廃棄物だったということか。」
「はい。」
アリスは迷いなく答えた。
「余剰エネルギーを魔石へ移し、長い年月をかけて自然に魔力を放出させる。」
「それが最も安全な処理方法だったのでしょう。」
部屋が静まり返る。
誰もそんな発想はしたことがなかった。
魔石は貴重な資源。
その常識が、音を立てて崩れていく。
しばらく考え込んでいたカイルが、ふと顔を上げた。
「待ってください。」
全員の視線が集まる。
「もし、この仮説が正しいのであれば……。」
カイルはゆっくりと言葉を続けた。
「火山活動が抑えられたことで、この土地は人が住める環境になったことになります。」
「……!」
「そして、人々が住み始めた後、この洞窟に捨てられている魔石に気づいた。」
マクシミリアンも頷く。
「魔力が残っている魔石には利用価値がある。」
「だから持ち帰った。」
「ええ。」
アリスもその仮説を引き継ぐ。
「最初は偶然だったのでしょう。」
「ですが、暖房や調理に使えると分かり、次第に生活へ取り入れられるようになった。」
王太子も静かに頷いた。
「そして時代が流れ……。」
「ベレニケ家が魔石の管理を引き継ぎ、領民へ配布する仕組みができた。」
「そう考えれば、全てが一本の線で繋がります。」
その場にいた誰も反論しなかった。
祭壇。
火の魔石。
ベレニケ領。
代々受け継がれてきた言い伝え。
それらは別々の存在ではなく、すべて一つの目的のために築かれた仕組みだったのである。




