第70話 祭壇の目的と仮説
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「地下深くから莫大なエネルギーが送り込まれていたこと。そして、この地がかつて火山地帯だったという記録。この二つは決して無関係ではありません。」
「つまり、地下のエネルギーとは火山活動のエネルギーだと言いたいのか?」
王太子の問いに、アリスは力強く頷く。
「はい。地下に蓄積された膨大な熱エネルギー……それこそが、祭壇が吸い上げている正体ではないでしょうか。」
「だが、それなら話がおかしい。」
口を開いたのはセドリックだった。
「地下の熱を利用して魔石を作るのが目的なら分かる。だが、それほど大掛かりな施設を造る必要があるのか?」
「そこですわ!」
アリスは嬉しそうにセドリックを指差した。
「私も最初はそう考えました。でも、それでは規模が大きすぎます。」
「規模が……?」
「はい。」
アリスは祭壇の見取り図へ視線を落とす。
「あれほど巨大な導管を地下深くまで伸ばしているのです。魔石を作るだけなら、もっと効率の良い方法があったはずです。」
マクシミリアンも静かに頷く。
「確かに、魔石を作るためだけの施設とは思えなかった。」
「ということは……。」
カイルが思案しながら口を開く。
「魔石は目的ではなかった?」
その一言に、アリスは笑みを浮かべた。
「その通りですわ。」
部屋が静まり返る。
「この古代魔道具の本来の目的は、地下のエネルギーを利用することではありません。」
一拍置いて、ゆっくりと言葉を続ける。
「火山活動を抑えることです。」
その場にいた全員が息を呑んだ。
「火山活動を……抑える?」
王太子が低く呟く。
「ええ。」
アリスは静かに頷いた。
「火山は地下にエネルギーが蓄積し続け、その限界を超えた時に噴火します。」
「ならば、そのエネルギーを事前に吸収してしまえば……。」
セドリックが言葉を続ける。
「噴火そのものを防げる。」
「はい。」
アリスは嬉しそうに微笑んだ。
「そして吸収したエネルギーは、そのままでは危険すぎます。だから魔力へ変換し、さらに火の魔石へ移し替えているのです。」
「つまり、火の魔石は……。」
マクシミリアンが静かに呟く。
「余剰エネルギーの処理方法。」
「その通りですわ。」
アリスは迷いなく頷く。
「魔石を作ることが目的ではなく、安全にエネルギーを取り除いた結果として魔石が生まれているだけなのです。」
王太子は腕を組み、しばらく考え込んでいた。
やがて静かに口を開く。
「そう考えると、代々伝えられてきた言い伝えにも説明がつく。」
「『注げる魔石を絶やしてはならない』……ですね。」
カイルも頷く。
「祭壇が止まれば、地下のエネルギーを吸収できなくなる。」
「そして……。」
マクシミリアンが険しい表情で続けた。
「再び、この地は火山地帯へ戻る可能性がある。」
重苦しい沈黙が部屋を包む。
ベレニケ家に代々受け継がれてきた言い伝え。
それは単なる教えではなく、この領地そのものを守るための警告だったのかもしれない。
王太子は静かに立ち上がる。
「この仮説が正しいかどうかは、必ず確かめなければならない。」
全員が王太子へ視線を向けた。
「明日、もう一度『火竜の顎』へ向かう。」
「今度は、この仮説を前提として調査を行う。」
「もしアリス嬢の考えが正しければ、昨日とは違うものが見えてくるはずだ。」
その言葉に、その場にいた全員が静かに頷いた。
翌日、調査隊は新たな仮説を胸に、再び『火竜の顎』へ向かうこととなった。




