第65話 振り子実験データの行方
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「……やはりだ。転移魔法に莫大な魔力と計算時間を要していたのは、現地の正確な『物理的座標』と『重力などの環境変数』が不明であり、何度も補正をかけるのに魔力を使用していたからだ。だが、アリス嬢が送ってくれたデータにはその不明だった部分が書かれている。必要なデータは揃った!」
王太子は、歓喜の混じった笑みを浮かべた。
「この数式を使えば、これまでの数分の一……いや、ほんのわずかな魔力で、ベレニケ領のピンポイントな位置まで安全に空間転移できるぞ!!」
「な、なんと……!?」
「急げ! カイル達は、その祭壇へ調査に向かうはずだ! 研究所の連中を集めろ!準備ができ次第、ただちにベレニケ領へ直接『転移』しカイル達に合流するぞ!!」
* * *
夜が明けたベレニケ家では、洞窟への調査隊の準備が整い、出発の時を待っていた。
「我々のチームは洞窟の祭壇の調査に向かう!残ったチームはベレニケ領に関する文献を片っ端から洗え。では、出発するぞ!!」
カイルが出発の号令をかけ馬車に乗り込んだその時――
突如として、屋敷の前庭から目を焼くような強烈な魔力の光が立ち上った。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
マクシミリアンが腰の剣に手をかけ、カイルたちも即座に窓の外へ視線を向ける。
光が収まった後、そこに立っていたのは――複数の観測機材を持った王立研究所の第一級研究員たちの集団と、その先頭でマントを翻す王太子の姿だった。
「あ、兄上ェッ!?」
窓から身を乗り出し、カイルが素っ頓狂な叫び声を上げる。
「なぜここに!? 転移魔法を使ったのですか!? 王都からこのベレニケ領まで、数十人を一度に転移させるなど、一体いくつ魔力結晶を消費したのですか……っ!」
慌てて庭へ駆け出してきたカイルたちに向かって、王太子は上機嫌に笑いかけた。
「安心しろカイル、魔力結晶は使用していない。アリス嬢の転移理論と、今回送られてきた『ベレニケ領の基礎物理データ』を組み合わせた結果、転移の燃費が劇的に改善されたのだ。術者の魔力だけで賄えるほどにな!まったく、アリス嬢は歴史を塗り替えるのが早すぎるな!ははは」
「え……? あのデータが……?」
カイルとセドリックが呆然と立ち尽くすその後ろで、硬直するマクシミリアン。
「まあ!! あのデータ……『空間転移における位置エネルギーと三次元座標系の最適化』の方程式に当てはめ再計算されたのですね!!……なんて素晴らしいのでしょう!!マクシミリアン様が提言され身をもって実証された理論が証明されましたわ!!」
目の前で、理論が証明されたと興奮するアリス。
「マクシミリアン?」
不思議そうな王太子に、カイルが馬車での出来事とその後の実証実験について手短に説明した。
王太子はツカツカと歩み寄ると、マクシミリアンの肩にガシッと手を置き、万感の思いを込めて深く頷いた。
「話は聞いた。お前が自ら理論を提言し体を張って、ベレニケ領における重力加速度やエネルギー変換の『実証実験』を行ってくれたそうだな」
「えっ」
「そのおかげで、我々はタイムラグを潰してこうして駆けつけることができた。お前のその『物理的アプローチ』、見事な働きであった!」
「――ッ!?」
マクシミリアンは息を呑んだ。
(違う……ッ!! 俺はあいつの理論の矛盾を指摘した結果、逃げ道を完全に塞がれ『振り子実証実験』の重りにならざるを得なかっただけだッ……!!ここで頷いてしまえば、実証実験の正当性が認められてしまう……)




