第64話 緊急の連絡を受け取った王太子
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――そして、翌朝未明。
空がうっすらと白み始めた王都の王宮で、王太子は深い眠りの中にいた。
「殿下、急ぎの報せでございます。レオナルド様より緊急暗号通信が」
寝室の外から響く側近の切迫した声に、王太子は重い瞼をこじ開けた。ベッドの上に身を起こし、まだ覚醒しきっていない中で、差し出された封書を受け取る。
急ぎ灯された魔力ランプの下で、暗号を解読した文面に目を通した。
『ベレニケ領』『火の魔石の祭壇』『重大な異常の発覚』。
単語の羅列が頭の中にじわじわと浸透してくる。
(……魔石の産出に異常? なぜカイルではなく、レオナルドがわざわざ緊急暗号で……)
寝起きの霧がかった頭では、事態の深刻さがすぐには結びつかない。
怪訝に思いながら、王太子は同封されていたもう一つの書類に目を落とした。『振り子の実験データ』と書かれた羊皮紙の束だ。そこにびっしりと書き込まれていたのは、ベレニケ領における重力加速度の正常性を示す、狂気的なまでに正確な数値とグラフだった。
「……なんだ、これは?」
最初は全く理解できなかった。なぜ緊急事態の報告に、こんな基礎物理のデータが添えられているのか。
だが、報告書の続きと、そのデータが示す『意味』を交互に読み進めていくうちに――。
(ベレニケ領の物理法則は『正常』……)
(にもかかわらず、祭壇は外部からの『入力』なしに魔石を生成し続けている……?)
(ん?待て。それでは、莫大な出力のエネルギーはどこから? ……無から有が生み出されている……?)
じわじわと、だが確実にその事実が脳全体に広がっていく。
(――『永久機関』……!?)
すべての情報が脳内で繋がり、事態の全容を完全に理解した瞬間、王太子の睡魔は吹き飛んだ。すぐに、頭をフル回転させ……
「……今すぐに王立研究所の第一級研究員たちを全員叩き起こせ!!」
* * *
――静まりかえっていた王宮が、一気に慌ただしくなっていく。
会議室には、まだ眠い目を擦っている王立研究所の第一級研究員や文官、側近たちが集められた。
「緊急事態が起きた!!ベレニケ領で異常な魔石生成が発覚した。祭壇は外部からの『入力』なしに魔石を生成し続けているらしい。(アリスの講習を受けた)お前たちならこの意味が分かるだろう!……今すぐ、魔力測定器とあらゆる防護魔道具をかき集め、 直ちにベレニケ領へ向かう!!」
まだ夜も明けきらない王城に王太子の声が響き渡る。
「で、殿下! お待ちください!」
慌てて文官が進言する。
「ベレニケ領まで馬を飛ばしても数日はかかります。転移魔法陣を使うにしても、辺境までの正確な座標計算と魔力充填には莫大な時間が……っ」
「……待て!」
文官の言葉を遮り、王太子は手元の『振り子データ』を凝視した。
そこにびっしりと書き込まれた、ベレニケ領の精緻な重力加速度や位置エネルギーの数値。
脳裏にアリスのレポートがよぎった。
「以前、アリス嬢の研究所にあった『空間転移における位置エネルギーと三次元座標系の最適化』に関するレポートがあるはずだ。今すぐ持ってこい!」
「は、はいっ!」
数分後、運び込まれた分厚いレポートに記述されている数式に、王太子は自らペンを走らせ、今回送られてきた『ベレニケ領の基礎物理データ』を代入していく。
さらさらと書き込まれる数式。そして、導き出された結果に、王太子はゴクリと息を呑んだ。




