第62話 緊急招集
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ベレニケ当主執務室の奥にある応接室。
防音結界(風属性)が張り巡らされた部屋の扉が開き、セドリックが数名の男たちを伴って入室してきた。
その先頭に立つのは、王太子の片腕と名高い側近のレオナルドだ。主君である王太子にカイルたちの補佐監督を命じられ視察団に加わっている。彼もまた、アリスの『物理講習』を嫌というほど受講させられた被害者の一人である。
「カイル殿下。急な招集とのことですが、いかがなされましたか?」
レオナルドは室内のただならぬ空気を即座に感じ取り、状況を把握すべく静かに口を開いた。
「……すまないな、急に呼び立てて」
カイルは重々しい声で口を開くと、ヨハンに合図を送る。ヨハンは頷くと、扉の鍵をしっかり掛け、室内の防音結界出力が最大であることを確認した。
「これから話す内容は『特級機密事項』に該当すると思われる。ここから先は、慎重に取り扱え」
為政者(王族)としての覇気を放つカイルの言葉に、レオナルドたち側近が息を呑み、即座に姿勢を正した。
「単刀直入に言おう。ベレニケ領の洞窟にある『火の魔石』を生成する古代魔道具についてだ」
「ベレニケ家の魔石、ですか。我が国の産業の一つとして周知の事実ですが、それが何か問題でも?」
レオナルドが怪訝な顔をする。
火の魔石を産出する祭壇の存在は、一部の貴族や王家にとっては既に知られた事実だ。それがグランディス公爵家との政略結婚の原因になっていたことも把握されている。今更それを特級機密として扱うほどの事態かと言われると、ピンとこないのだろう。
彼のその「魔法社会の常識的な反応」を予想していたカイルは、低く、押し殺したような声で言葉を継いだ。
「ああ。魔石を生み出している事自体は知っての通りだ。だが、その『生成過程』において、重大な異常があるという事実が発覚した」
「……異常、ですか」
「レオナルド、アリス嬢の講習を受けたお前なら分かるはずだ。あの祭壇は、誰も魔力を注いでいないのに、魔石を生み出し続けている」
「――っ!?」
その瞬間、レオナルドの顔からスッと血の気が引いた。
魔法の常識しか知らない他の側近たちが「誰も魔力を注がず魔石ができるなら、便利で良い魔道具ではないか」と首を傾げる中、物理学を知ってしまったレオナルドだけは、その言葉が意味する『事実』を即座に理解してしまったのだ。
「だ、誰も入力していないのに、魔石という莫大なエネルギーが出力されている……? ば、馬鹿なッ! それではエネルギー保存の法則が……質量保存の法則が崩壊しますッ!!」
「そうだ」
カイルはひどく疲れた顔で頷いた。
「閉鎖された洞窟内で、外部からの燃料補給もなしにエネルギーを生み出し続ける。それがもし『永久機関』と呼ばれる理を外れた代物だとしたら。……逆に、我々の観測できない『未知の入力源』が存在しているのだとしても」
「なっ……!?」
「単なる『不思議な古代の遺物』で済まされる話ではない。中身が分からないからこそ、扱いを一つ間違えれば国家そのものを吹き飛ばす脅威にもなる。だからこそ、兄上への急ぎの報告と、徹底した調査、それに伴う管理が必要になる」
水を打ったように静まり返る応接室。
事の重大さを理解したレオナルドは、小刻みに震える手で額の冷や汗を拭った。
(みなさま……完璧な論理展開と、素晴らしい理解力ですわ!)
マクシミリアンに羽交い締めにされながら、アリスは有能な王子と側近のやり取りに、生徒の成長を実感し(心の中で)盛大な拍手を送っていた。
「……レオナルド、兄上へ直通の暗号通信を持つ『伝令鳥』を連れてきているな? 直ちに兄上へ報告しろ!」
「ハッ。直ちに手配いたします」
レオナルドが頷く。王太子の片腕である彼が直接、特級緊急暗号で鳥を飛ばせば、即座に王太子に伝わり指示が仰げるはずだ。
しかし、カイルの顔から険しさは消えなかった。




