第61話 三人の男たちは事の重大さを悟る
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その異様な熱狂に、周囲の貴族たちがヒソヒソと囁き合い始めた。
――しかし、彼女によって『物理法則』という概念を脳に叩き込まれていた三人の男たちの反応は全く違っていた。
「……確かに。アリス嬢の仰る通りです」
セドリックが、持っていたグラスをテーブルに置き、極めて深刻な顔で顎に手を当て、周囲に聞こえないように小声で囁いた。
「王立研究所で開発した魔道具は、あくまで術者の『マナ』を『魔石』という形に定着させているに過ぎません。入力と出力のエネルギー総量は一致しており、エネルギー保存の法則に則っています。しかし、その祭壇は……」
「誰もマナを注いでいないのに、魔石を生み出しているんだったな」
マクシミリアンが腕を組み、険しい表情で会話に加わる。
「無から有は生まれない。俺だって昼間の過酷な実験で、『位置エネルギー』と『運動エネルギー』の変換を嫌というほど体で叩き込まれた。魔石という莫大なエネルギーの塊がポッと出てくるなら、必ずどこかで同等のエネルギーが消費されているはずだ」
「……ああ、その通りだ」
カイルもまた、青ざめた顔で眉間を揉みほぐした。
「そもそもその祭壇は、洞窟の奥深くという外部から隔絶された空間にあるのだろう? 閉鎖環境で、外部からのエネルギー補給もなしに稼働し、エネルギーの塊を生み出し続けているのだとしたら……」
カイルはゴクリと唾を飲み込み、信じられないというように言葉を続けた。
「それは、『絶対に不可能である』と教わった……『永久機関』そのものではないか」
「「永久機関……!」」
三人の間に、ぞくりとした冷たい緊張感が走る。
ただの『不思議な古代の祭壇』――以前の彼らなら、そう言って魔法の常識として思考停止していただろう。だが、質量保存の法則や熱力学の基本を知ってしまった今の彼らには、その祭壇がどれほど『異常』で『理不尽』な現象を起こしているかが痛いほど理解できてしまった。
「な、なんだい君たち? さっきからインプットだのエネルギー保存だの……」
完全に蚊帳の外に置かれたヨハンが、オロオロと三人の顔を見比べる。
「その古代魔道具……とんでもない代物かもしれないぞ」
カイルが、極めて真剣な声で告げた。
「その通りですわ!!」
三人の緊迫した空気をぶち破るように、アリスが興奮した声で割り込んできた。
「もしそれが真の永久機関なら……むぐっ!?」
「ばっ……馬鹿! 声が大きい!」
マクシミリアンが慌ててアリスの口を両手で塞いだ。
三人は冷や汗を流しながら、鋭い視線で周囲を見回す。
ここはビュッフェ形式の立食パーティーの会場だ。少し離れた場所では、着飾った貴族たちが「ベレニケ家の令嬢と殿下たちが何やら騒いでいる」と好奇の目を向けている。
(いかん……ここでこれ以上話すには、人目がありすぎる)
カイルは冷静に思考を巡らせた。
その祭壇という古代魔道具が『永久機関』という物理法則を逸脱した代物なのだとすれば――それはもはや、一介の公爵家が欲しがるような「経済的利権」などというスケールの話ではない。
入力源が明らかになっていない以上、これはもはや国家の特級機密事項である。
「ヨハン殿」
カイルは極めて慎重な声で、アリスの兄であるヨハンに向き直った。
「客室でも書斎でも構わない。人払いができて、声が漏れない部屋はあるか?」
「え? あ、ああ。父上の執務室の奥にある応接間なら、分厚い防音の魔術結界が張ってあるが……」
「よし、そこへ案内してくれ。セドリック、兄上の側近たちを探して呼んできてくれ! マクシミリアン、お前はアリス嬢の口を塞いだまま、リリィ嬢を連れて私と一緒に来い」
「はいっ」
マクシミリアンは「むぐぐっ!」と抗議して暴れるアリスを必死に押さえ込みながら、神妙な面持ちで頷いた。




