第60話 古代魔道具の存在を知った令嬢
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カシャーン。
少し離れたビュッフェテーブルで「ローストビーフの最適な熱伝導率」を観察していたはずのアリスが、慌ててお皿を置いて猛烈な勢いで会話に乱入してきた。
「どういうことですの!? 古代魔道具ってなんですの!?」
アリスは目を爛々と輝かせ、ものすごい勢いでマクシミリアンに詰め寄った。
「はあ〜!? お前、俺たちの婚約の経緯を知らなかったのか!?」
マクシミリアンは目を丸くして驚愕の声を上げた。政略結婚の当事者でありながら、その事情をこれっぽっちも把握していなかったという。
彼女はすぐさまターゲットを切り替え、近くのテーブルでまさにテリーヌを口に運ぼうとしていた兄のヨハンをガシッと捕まえた。
「ヨハン兄様! 私の婚約の経緯って!? 『古代魔道具』って何ですの!?」
「あわわわっ! ア、アリス、ちょっと待っ……テリーヌが落ちる……っ!」
激しく揺さぶられ、目を回すヨハン。
しかしアリスの握力(ヨハンは知らないが物理魔法でちゃっかり強化されている)から逃れられないと悟った彼は、涙目でフォークを置き、観念したように口を開いた。
「わ、分かった! 揺らすのをやめてくれ! いいかいアリス、そもそも君とマクシミリアン殿の婚約は、父上とグランディス公爵の間で結ばれた典型的な政略結婚だったんだよ」
「政略結婚……? つまり、愛のない契約ですのね。合理的で結構ですわ。続けてください」
「そこはいいのかい?もう少し令嬢らしい反応をしてほしかったけど……話を戻すよ。公爵家が喉から手が出るほど欲しがっていたのは、我がベレニケ領の洞窟の奥にある『古代魔道具』の独占利権だったんだ」
周囲の貴族たちに聞かれないよう、ヨハンは声を潜めて深刻そうに語る。
「その古代魔道具とは……『火の魔石』を生成する祭壇なんだ。ただ、魔石を生成するのにかなりの日数を要するし、品質もさほど優れたものではないが……」
「なるほど。だが、これまで他に火の魔石を生み出す手段がなかったから、公爵家もその利権を欲しがったというわけだな」
カイルが腕を組み、納得しながら相槌を打つ。
「そう。しかし数年前、王立研究所の研究者たちによって、無属性の石に効率よく火属性の魔力を定着させる『属性付与魔法陣』を組み込んだ魔道具が発明されてね……」
「……」
「火属性魔術師がそれに魔力を流し込めば、我が家の古代魔道具よりも『短い時間』で『高品質』の火属性魔石が作れるようになったんだよ。結果、我が家の天然魔石の価値はなくなり、公爵家にとって君と結婚する『メリット』は完全に消失していたんだよ。だから、婚約破棄については公爵家としても『旨味がなくなったから捨てた』と周囲に言われないためにも、一方的な破棄ではなく、穏便な解消という形にした……というのが、事の顛末だよ」
ヨハンはフーッと息を吐き出し、「我が家の没落の危機だったんだよ」と苦労人らしい哀愁を漂わせた。
カイルもマクシミリアンも、貴族社会のシビアな現実に頷いている。
しかし――ただ一人、アリスの反応だけは全く違った。
彼女は家の利権の喪失にも、マクシミリアンから突きつけられた『婚約破棄』が、裏であっさりと『婚約解消』として片付けられていた理由にも、これっぽっちも興味を示していなかった。
「祭壇で魔石が生成される……?えっ?魔石にマナを閉じ込める、そのマナはどこから……??えっ??」
アリスは顎に手を当て、ブツブツと呟き始めた。
「……え? アリス?」
(ただの祭壇ではありませんわ!!火属性の魔術師がマナを供給しているわけでもない……ではそのマナはいったいどこから……)
アリスは両手で顔を覆い、新たな研究対象の出現に歓喜のあまり声を震わせながら叫んだ!
「究極の『ブラックボックス』ですわ!!!」
「ぶ、ぶらっくぼっくす……?」
「魔石という明確な出力が存在する以上、そこには必ず未知の入力源があるはずです! ゼロからエネルギーは生まれません! ああっ、なんとしてもその入力源を突き止めなければ……!!」
アリスは目をキラキラと輝かせ、うっとりと未知の入力源へ想いを馳せた。




