第59話 実証実験の成功と歓迎パーティー
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視察団を乗せた馬車はベレニケ領へ向けてのどかな春の街道を進んでいく。
車内は、先ほどまでの騒動が嘘のように、奇妙な静寂に包まれていた。
アリスは腕を組み、目を閉じて黙々と『振り子を用いた座標誤差の可視化と空気抵抗の排除』という新たな実証プランの計算に没頭している。
マクシミリアンも、これ以上余計な発言をして自らに火の粉が降りかからないよう、アリス達に一切目を向けることなく、車窓からの景色を見たり、小声でリリィと他愛無い話をしながら過ごした。
そうして、穏やかな静けさを保ったまま、一行は無事にベレニケ領へと到着した。
――そして、領主の館に着いた途端、休む間もなく「実証実験」が幕を開けたのである。
「素晴らしいですわ、マクシミリアン様! 完璧な『重り』です!」
「ふふっ、これほど精度の高いデータが取れるとは。マクシミリアン殿の理論と身体能力には本当に頭が下がります」
ベレニケ邸の広大な吹き抜けのホール。
天井から強靭な糸で吊るされ、自らの物理魔法で空気抵抗を極限まで抑え、体を丸めたマクシミリアンが、巨大な『振り子の玉』として右へ左へと宙を舞っていた。
「うおおおおおっ! 目が回るぅぅぅっ!!」
「マクシミリアン様、目を閉じてくださいませ! 視覚情報を遮断することで、感覚の不一致という変数を一つ減らすことができますわ!」
彼の情けない悲鳴がホールに響き渡る中、アリスとセドリックは床に這いつくばり、振り子の軌道から純粋な空間座標のズレを猛烈な勢いで計算していく。
そしてカイルは、見事な放物線を描くマクシミリアンを冷ややかな目で見上げながら……
(……最強のストッパーにと期待していたが……。案外、あいつがモルモットになってアリス嬢の興味を惹きつけている方が、周囲への被害が少ないんじゃないか……?)
こうして、マクシミリアンの実証実験は、極めて正確なデータをもたらし大成功を収めたのであった。
その夜。
ベレニケ邸の広大なホールでは、王族や視察団一行をもてなすための『歓迎のパーティー』が開かれていた。
長旅の労いと視察の成功を祈る、和やかで砕けた雰囲気の中、会場の片隅にあるソファには、深く体を預けたマクシミリアンとそんな彼を気遣うリリィの姿があった。
「……うう、まだ世界が揺れている気がする……」
マクシミリアンは、昼間の過酷な実験(振り子)の疲労と酔いを引きずり、ぐったりしながらグラスを傾けていた。その隣で、リリィが心配そうに彼を労いながら、ふと不思議そうな顔で口を開いた。
「……マクシミリアン様。ずっと気になっていたのですが」
「なんだね、リリィ?」
「マクシミリアン様とアリス様って昔から噛み合っていなかったのですか……?それなら、なぜもっと早く婚約を解消なさらなかったのですか? 公爵様にお願いすれば、すぐにでも解消できたのでは?」
和やかなパーティーの空気が手伝ったのか、リリィは無邪気に問いかけた。
「……それは、当時の我がグランディス公爵家とベレニケ伯爵家の間に、どうしても外せない『利権』が絡んでいたからな」
「利権、ですか?」
「ああ。ベレニケ伯爵家には、代々伝わる『古代魔道具』の利権があった。父上は私とアリス嬢を婚姻させることで、その古代魔道具を公爵家の管理下に置くことを狙っていたのだ」
すると、近くで歓談していたカイルとセドリックが、「なるほど」と静かに会話に加わってきた。
「『政治的・経済的メリットの消失』とは、その古代魔道具のことか。近年、新たな魔道具が開発されたことで利権の価値が失われ、婚約解消が認められた……というわけだな」
「申し訳ございません、殿下。『政治的・経済的メリットの消失』の内容までは必要ないかと報告しておりませんでした」
「構わない!当時の状況ではそこまで報告を求めていない」
二人の間で政治的な会話が行われていた、まさにその時だった。
「えっ!? 古代魔道具!?」




