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無自覚転生令嬢の物理魔法  作者: 深谷 汎
第二部 第5章 ベレニケ領 と 古代魔道具

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第55話 ベレニケ領視察!~出発前~

王宮の正門前に、春の朝日を浴びて輝く豪奢な馬車と、それに続く何台もの荷馬車が列をなしている。


今回のベレニケ領への大規模な視察には、王太子が主導する、未来を見据えた国家レベルのプロジェクトが絡んでいる。


目的は、アリスが幼い頃に考案し、現在も領民たちが便利に使っている「物理道具」の実態調査だ。魔力を持たずとも生活を豊かにできるその道具をまずは庶民層へ普及させ、「物理」という概念を国全体に浸透させる、その足がかりにするためである。


ゆえに、視察団は護衛の騎士や実務を担う文官、そして大量の物資を積んだ荷馬車が連なった大規模な編成となっている。出発の時間を目前に控え、実務担当の事務官たちが額に汗を浮かべながら、羊皮紙のリストを片手に走り回っていた。


慌ただしかった準備もようやく整い、視察団の面々が馬車に乗り込もうと集まってきたその時……


「――王太子殿下がお成りであらせられる!」


近衛騎士のよく通る声が響き渡った。視察団と同行する事務官や護衛たちは一斉に動きを止め、その場に深く臣下の礼をとった。


整列した騎士たちに囲まれながら姿を現した王太子は、今回の国家プロジェクトの主導者である。


多忙な王太子が自ら見送りにやってきたことで、正門前の空気は一段と引き締まった。王太子は平伏する視察団の面々を見渡し……


「面を上げよ!」


王太子の凛とした声に、一同が一斉に顔を上げる。


「此度のベレニケ領への視察は、単なる視察ではない。魔力を持たずとも人々の生活を豊かにする『物理道具』――その調査が目的だ。これは、我が国の未来を切り拓くための重要な調査であり、国家の発展が懸かっている。皆のもの、必ずやこの調査を成し遂げプロジェクトを成功に導いてほしい!」


「「「ははっ!!」」」


王太子の激励の言葉に、騎士や文官たちの士気は高まり、力強い返答が正門前に響き渡った。見送りに集まった者たちからも、期待に満ちた歓声が上がった。


見事な演説で場を沸かせた後、王太子は馬車に乗り込もうとしていたカイルの元に歩み寄った。


「兄上……わざわざお見送り、ありがとうございます」


「我が国の未来を左右する重大な視察だ。当然だろう」


カイルが姿勢を正すと、王太子は静かに頷いた。そして、周囲の者たちに聞こえないよう声を潜め、カイルの肩にポンと手を置き……


「カイル。今回の視察は……その、色々と大変だと思う……」

「……」

「だが、アリス嬢の発明品は、わが国に必要不可欠なものだ。セドリックが使えない今、まともな判断力を持つお前だけが頼りだ。しっかり頼むぞ」


「お、お言葉ですが兄上! 私一人で彼らの手綱を握るなど、到底――」

「カイル、我が国の未来は、お前の肩に掛かっている。頼んだぞ」


有無を言わさぬ王太子の清々しい笑顔と、肩に置かれた手のずっしりとした重圧に、カイルはそれ以上抗議の言葉を紡ぐことができなかった。


(手綱を握るどころか、私が振り回される未来しか見えないのだが……)


カイルの胸中は、もはや確信に近い不安でいっぱいだった……

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