第45話 天国と地獄……令嬢の心は乱高下
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私は今、王宮の一室に身を寄せている。
事の発端は、あの日、王太子殿下から下された命令だった。
「アリス嬢。君にはしばらく王宮に滞在してもらいたい。我々のレポート確認作業に立ち会い、君が構築したすべての『防御策』の説明と、その実証の協力を行ってもらう。……いいかな?」
「……『実証』?」 私はピクッと反応した。
「ああ。君の理論が本当に安全に機能するかどうか、我々が実際に魔法(物理)を行使し、一つ一つ検証していく」
「私の考えたすべての『防御策』を……この高性能CPU(天才)たちが、一つ残らず実証してくれるということですか!?」
私の瞳に、先ほどまでのどす黒い嫉妬の炎とは全く違う、キラキラとした強烈な光が宿った。
「そ、そうだが……?」 王太子殿下が少し引いたように頷く。
「やります! やります!やらせてください!!」 私は歓喜の声を上げた。
前世で、どれほど素晴らしい理論を思いついても、それを実証するためには莫大な予算と巨大な実験施設、そして何年もの歳月が必要だった。 それが今、国家がスポンサーとなり、しかも最強のCPU(セドリック様や王族の方々)が、私の脳内のあらゆる仮説を即座に目の前で実証してくれるというのだ。
こんなの、物理学者にとって天国以外の何物でもない!!
「素晴らしいですわ! さあ、まずは流体力学を用いた気象操作の検証から始めましょうか! セドリック様、カイル殿下、準備はよろしいですか!?」
「お、おう……急に元気になったな……」
先ほどまでの「チートCPUに対する嫉妬心」は、研究者としての高揚感で綺麗に吹き飛んでいた。
(少なくとも、この時は――)
「ふっ、あんなに、目をキラキラさせて……可愛いな……」
目を輝かせてレポートの山を漁り始めた私の背中を熱を帯びた瞳で見つめながら、セドリック様が優しく呟いたことに私は気づかなかった。
かくして、国家を挙げての「アリスの物理魔法検証」という、新たな知のプロジェクトが幕を開けたのである。
王宮の特別演習場では、連日連夜、私のレポートの「実証」や「防御策の検証」が行われていた。 そこは今や、最高権力者たちと私が入り浸る、国家機密の実験場となっていた。
「アリス嬢。先ほどの『音波の共振による物質の内部破壊』の防御策ですが……」
演習場の中央で、セドリック様が涼しい顔をして振り返った。
彼の周囲には、私が指定した周波数の音波を防ぐための「マナの真空層(音を伝えない絶対防壁)」が完璧な球体を描いて展開されている。
「あなたが提示した真空層の形成ですが、計算式を少し改良してみました。……真空層の表面に特定の魔力振動を付与することで、受けた音波の位相を逆転させ、そのまま相手に跳ね返すのはどうでしょう?これならエネルギーの変換効率も、元の理論より約二十パーセントほど向上します。」
セドリック様は、少しだけ熱の籠った声で――何かしら期待を込めた眼差しで、私を見つめてきた。
だが、その完璧すぎる改良案を聞いた私の心は、再び、重く、どす黒い雲に覆われていった。
(それって、反射型のカウンター防壁。……しかも……)
「……二十パーセントも、向上ですか……」
「ええ。この数式を組み込めば、瞬時に――」
「そうですか、分かりました……」
(私の考えた基礎理論なんて、セドリック様のチートCPUの前ではただの踏み台に過ぎないのね。……私のようなポンコツは隅っこで――)
「私、あちら(隅っこ)で大人しく重力加速度でも計算しています……ぐすっ」
「えっ? ア、アリス嬢!?」
私は膝を抱えて演習場の隅に座り込んだ。
私の周りには、どんよりと暗くて重い空気が立ち込めていた。
(何ヶ月もかけて計算した最適解を、たった数日で上書きされるなんて……!悔しい…悔しい…悔しい!理不尽だ!天才なんて…グスン!!)




