第42話 令嬢の悔し涙に射抜かれたハート
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「誤差なんてありませんわよ! 完璧ですわ!いえ、完璧以上ですわよ!!」
私はバンッ!と机を叩き、三人を真っ直ぐに指差した。
「だいたい、私の検証レポートが危険だなんだと騒いでいましたけど、それを一瞬で理解して実践レベルに昇華できるあなたたちの方がよっぽど危険ですわ!!」
「なっ……!?」 カイル殿下が目を丸くする。
「ええ、ええ! 波長の瞬時計算だの、大気中のマナの高密度圧縮だの、普通そんな超高速処理を出せる人間がこんなにごろごろいるはずがありません! 私の理論より、あなたたちみたいな『生きた超高性能演算装置』の方がよっぽど脅威です!! 歩く大量破壊兵器は自分たちの方じゃないですか!!」
私は悔し涙をボロボロと流しながら逆切れし、理不尽極まりない言葉を投げつける。先程まで私を散々糾弾していた未来の国王陛下とその臣下たちは、ポカンと口を開けて完全に固まってしまった。
しかし、ただ一人。 至近距離で私に指を差されていたセドリック様だけは、全く別の衝撃に打たれていた。
(……なんだ、この可愛い生き物は)
彼は、鼻の頭を赤くして子供のように悔し泣きをする私を凝視していたかと思うと、頬を赤く染め、不意に口元を手で覆った。 これまで彼が貴族社会で見てきた女性の涙といえば、どれも己を美しく見せ、男の同情を誘うためのしたたかな『打算』の産物でしかなかった。権力と欲望にまみれた涙や微笑みに辟易し、いつしか女性そのものを遠ざけるようになっていたセドリックにとって、目の前の光景はあまりにも衝撃だった。
自分への恋慕でも、政治的な駆け引きでもなく。 ただ己の努力と『計算速度』の差で悔しがり、本気で地団駄を踏んで、感情のままに泣きじゃくる令嬢。
『歩く大量破壊兵器』などという物騒な暴言を叩きつけられたというのに、なぜか彼の胸の奥では、かつてないほど激しい高鳴りが音を立てていた。 常人離れした頭脳と恐ろしい理論を振りかざす令嬢の正体は、あまりにも純粋で、素直で、無防備な少女だった。
「……セドリック様? なぜ口元を押さえてそっぽを向くんですか! 私、何か間違ったこと言ってますか!?」
「い、いえ……。あまりにもアリス嬢が……あの……その、可愛らしくて…」
「か、かわっ……!? 人を馬鹿にしないでください! 悔しい~。わーん!!」
「まあまあ、アリス嬢。そんなに泣かないで」
私とセドリック様の謎のやり取りを見かねたのか、カイル殿下が苦笑交じりに口を開いた。
「セドリックは幼いころから桁外れに優秀でね。実は私も、彼のその頭脳にはよく嫉妬したものだよ。君の気持ちは痛いほど分かる」
「カイル殿下……」
優しく慰めてくれるその言葉に、私は一瞬だけホロリときかけたが、すぐにハッと我に返った。
(いや、私の『不可視の遠隔音声波形観測器(盗聴器)』の構造を一瞬で理解して見せたあなたも、十分すぎるほど規格外のバケモノ(ハイスペック)ですけれど!? 自分のスペックの高さを完全に棚に上げていませんか!?)
無自覚な天才がここにもう一人いた。 私は恨めしそうなジト目でカイル殿下を睨みつけた。




