第38話 アンチマジックは序の口でした
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「そうですね。マナの波形を空間の位相に同調させた消費魔力百分の一の『空間跳躍(転移)』の計算式……。あと……重力場への干渉を利用した『大質量の広域展開と地表における運動エネルギーの分散モデル』に……、魔力残滓を応用した『不可視の遠隔音声波形観測器』の設計図!あ、最近は『熱力学第二法則の局所的な逆行による永久凍土の生成シミュレーション』なんかも面白そうだと書き留めてて……」
((消費魔力百分の一の転移だと!? そんなもの、軍事利用すれば、部隊丸ごと敵国の防衛線へ送れるではないか……いや、ちょっと待て!!次なんて言った……『大質量の広域展開』だと?それは上空からの爆撃……いや、隕石落としじゃないか!! 普通に国境が更地になるじゃないか!?))
王太子の顔から血の気が引く。
((『不可視の遠隔音声波形観測器』!? 魔力光も術者の気配も一切残さず、他国の極秘会談を遠くから完全に傍受できる、究極の諜報装置じゃないか!!))
カイル殿下が冷や汗と共に戦慄する。
((そして永久凍土の生成!? 一つの国を氷河に沈める気か、この娘は!!!))
彼女にとっては純粋な『物理現象の検証』や『観測』に過ぎないのだろう。悪意も、軍事転用や他国への干渉といった興味も微塵もない。 だからこそ、最高レベルの『大量破壊兵器』と『諜報装置』となりうる爆弾が、無防備な研究室に「ちょっとしたメモ」として放置されているという事実。
それが、ストレス極限状態にある王族二人に、最後の一撃を刺した。
「「全部持ってこい!!!!!」」
王太子とカイル殿下の、喉が張り裂けんばかりの絶叫が見事にハモった。 あまりの大声に、私は思わず肩をビクッと震わせた。
「セドリック!! 今すぐアリス嬢の研究室へ向かい、存在する全てのレポート、論文、ノートを回収しろ!!」
「紙切れ一枚、メモ書きの端くれ一つたりとも残すな!」
「量が多すぎてセドリック様一人では運びきれませんよ?」
「だったらお前らも行って手伝え!!」
カイル殿下は部屋に控えていた護衛と側近たちを振り返って声を荒らげて命じた。
そして王太子殿下も私を指差して叫ぶ。
「お前は、自分の生み出した検証のヤバさを少しは自覚しろ!!」
かつてないほど取り乱し、顔を真っ赤にして叫ぶ未来の国王陛下と第二王子殿下。
その凄まじい剣幕に、事の重大さを完全に理解したセドリック様をはじめとする側近たちと護衛は、青ざめた顔で私の両腕をガシッと掴んで走り出した。
「アリス嬢!! 一刻も早く、あなたの研究室の全てを回収しなければ!!」
「ええっ!? ちょっと、セドリック様、引っ張らないでください! 私の運動エネルギーが……キャアアッ!」
私は一切の抗議を許されぬまま、セドリック様たちによって生徒会室から引きずり出された。
後に残されたのは、頭を抱えて胃の痛みにうずくまる、この国で最も高貴で、最も物理学に振り回されている不憫な兄弟だけだった。




