第36話 両脇を固められ連行される令嬢
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「……アリス・ベレニケ嬢。君には、少し詳しく話を聞かせてもらわねばならないな」
額に冷や汗を滲ませた王太子が、かつてないほど重々しい声で口を開いた。
「え? ですが殿下、まだ実地演習のデータ収集が……」
「演習は当面凍結だ! カイル、彼女を直ちに生徒会室へ連れていけ!」
「はっ。アリス嬢、ご同行願おう」
「えっ、ちょっと、カイル殿下……?」
有無を言わさぬ空気の中、アリスはカイル殿下や側近たちに両脇を固められ、まるで国家反逆の重罪人のような物々しさで、生徒会室へと『連行』されていく。
その背中を、両手を組んでうっとり見とれているリリィと、絶望で魂が抜けかけたマクシミリアンが、ただ呆然と見送るのだった――。
重厚な扉が、バタンッ!と重苦しい音を立てて閉ざされた。
生徒会室は今だかつてないほど、張り詰めた空気に支配されていた。
部屋の中央のソファに座らされたアリスは、自身の脇に立つカイル殿下と、目の前で頭を抱えるように座る王太子殿下を不思議そうに交互に見つめた。
「あの……殿下? なぜ私は連行されるような形でここに? 実地演習が途中でしたのに……」
何一つ思い当たる節がない、といった様子で小首を傾げるアリス。 そのあまりにも無自覚な態度に、王太子は深く、ひときわ重い溜息を吐き出した。
「……アリス嬢。君は、自分が先ほど何をしたのか、本当に分かっているのか?」
「はい? もちろん分かっておりますわ。魔力操作を誤った方のエネルギーが暴走してしまったので、事故を防ぐために安全処理を行っただけですけれど」
アリスは「床に落ちたゴミを拾いました」とでも言うような、至極当然のトーンで答える。 しかし、その言葉を聞いたカイルが、耐えきれないというように口を挟んだ。
「その『処理の方法』が問題なんだ! 君はあの巨大な魔力の塊を、何の呪文も詠唱もなしに、一瞬で消滅させた! あれは伝説に聞く、いかなる魔法も無に帰す力……『魔法を打ち消す魔法』ではないのか!?」
カイルの悲痛な叫びが部屋に響き渡る。
もしあの力が他国に知れ渡れば、魔法を主体とするこの世界の軍事バランスは完全に崩壊する。二人にとって、それはまさに国家の存亡に関わる重大事だった。
ところが――アリスは目をパチクリと瞬かせた後、小さく吹き出した。
「……アンチマジック?ふふっ…… まさか。そんなおとぎ話のような魔法、使えるわけないですわ」
「「は……?」」
王太子とカイルの声が見事に重なる。 二人が唖然とする中、アリスは当然の物理法則を説くように、すらすらと言葉を紡ぎ始めた。
「魔法を打ち消すような神秘的な力など使っておりません。私がやったのは、ただの『物理的干渉』ですわ。向かってくる純粋なマナの波形に対して、【完全に同じ質量・同じ速度のエネルギー】を、【真逆のベクトル(逆位相)】でぶつけて干渉させ、プラスマイナスゼロに落とし込んだだけですの。ごく初歩的な波の性質ですわ」




