表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無自覚転生令嬢の物理魔法  作者: 深谷 汎
第4章 国家を揺るがすレポート と 元婚約者の覚醒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/92

第35話 一人は愛のために、二人は国のために

※毎日 朝5時に予約投稿で更新中

「マクシミリアン様……っ! ぜぇ、ぜぇ……」

廊下には、ティータイムの席から彼を心配して必死に追いかけてきたリリィの姿があった。

しかし、国家存亡の危機にパニック状態のマクシミリアンの視界には、もはや愛する婚約者の姿は映っていない。


「えっ!? きゃあっ!」

彼は息を切らすリリィの横を猛スピードで駆け抜け、そのまま特別演習場へと向かって一直線に走り去っていく。


「ま、待ってくださいませ! マクシミリアン様ーっ!!」

訳が分からないまま、リリィもまた愛する婚約者を追って、小さな足で再び走り出すのだった。


――そして彼が目にしたのは、まさに地獄(演習)の真っ最中だった。


目の前の演習場では、炎や氷といった属性魔法の訓練ではなかった。彼らは魔力を一切の属性に変換せず、純粋な『エネルギーの塊』としてダイレクトに操作する実地演習を行っていたのだ。

しかし、属性というフィルターを通さない生の魔力操作はあまりにも難易度が高い。


「くっ……! ま、魔力が……言うことを……ッ!」

王太子の側近の一人が、顔を歪めながら叫んだ。見れば、彼の手のひらの上に浮かぶ『魔力の塊』が、異常なほどの魔力を注ぎ込まれたことでボウッと不気味な光を放ちながら、限界を超えて大きく肥大化しているではないか。


「馬鹿っ、魔力を込めすぎるな! 手放せ!!」

カイル殿下の制止も間に合わない。肥大化し、自重と圧力に耐えきれなくなった高密度のエネルギーの塊が、完全に制御を離れて弾け飛んだ。


ドォォォンッ!!


空気を震わせる轟音と共に、暴走した魔力の大質量が、大砲の弾のごとく一直線に放たれる。

その直線上――演習場の入り口には、マクシミリアンを追ってようやく追いついたばかりの、息を切らすリリィの姿があった。 


「ひっ……!?」


圧倒的なエネルギーの奔流を前に、リリィは恐怖で声も出せず、その場に縫い止められたように立ち尽くす。


(間に合え……ッ!!)

マクシミリアンは床を蹴り、無我夢中でリリィの元へと飛び込んだ。迫り来るのは、属性を持たない純粋な『魔力の塊』。過去、地獄を経験した彼には、あれが直撃すればどうなるかなど痛いほど分かっていた。それでも、彼は一切の躊躇なくリリィを強く腕の中に抱き寄せ、迫り来る魔力に向けて自らの背中を向けた。


「マクシミリアン様……っ!?」

「目を瞑っていろ、リリィ!!」

彼自身の全身もガタガタと震えていた。だが、腕の中の小さな体だけは絶対に守り抜く。  


周囲から「危ない!!」「ダメだ!!」という絶望の悲鳴が上がる中、マクシミリアンはギュッと目を瞑り、死の衝撃に備えて歯を食いしばった。


――しかし。

パァァァァンッッ!!!!


マクシミリアンの背中に衝撃が届くコンマ一秒前。鼓膜を劈くような甲高い破裂音と共に、彼らを飲み込もうとしていた巨大な魔力の塊は、まるで目に見えないガラスの壁に激突したかのように、何の前触れもなく無数の光の粒子となって砕け散ったのだ。


「……え?」

降り注ぐ光の粉を浴びながら、マクシミリアンは恐る恐る目を開けた。


視線の先――演習場の中央には、まっすぐ入り口へ向けて片手をスッと突き出したまま、静かに佇むアリス・ベレニケの姿があった。


「皆様、大丈夫ですの?怪我はありません?」


巨大な魔力が消滅したというのに、アリスはまるで落としたハンカチを拾い上げた直後のような、至極平坦な声で小首を傾げた。


(あ、あの女……何をしたんだ?あれほどの魔力の塊を瞬時に……!?)

マクシミリアンがそのデタラメな魔法に戦慄していると、腕の中にいたリリィがパチクリと目を瞬かせ、彼を押しのけて身を乗り出した。


「なんですの? 今の……? すごいですわ! すごすぎますわ、アリス様、素敵です!!」

「なっ……リリィ!?」

マクシミリアンは目を疑った。命の危機から救われたばかりの可憐な婚約者の瞳が、かつて見たこともないほどキラキラと星を散らして輝いているではないか。


周囲の騎士や側近たちが「助かった……」「奇跡だ……」とへたり込んで安堵の息を漏らす中、マクシミリアンだけは、愛する者が『最悪の沼』に足を踏み入れようとしていることに気づき、別の意味で絶望の淵に突き落とされていた。


(嘘だろリリィ!? なんであんな女に憧れの眼差しを向けているんだ!!)


そして――この演習場の中で、マクシミリアンと同じように安堵していない人間が、もう二人いた。魔法の真理と、国家の行く末を背負う権力者たちである。


「「待て待て待て……ッ」」

王太子殿下とカイル殿下。この国の未来を担う尊き兄弟の声が、見事なまでにハモった。

二人の顔面は、先ほどの魔力の暴発によるものではなく、今目の前で起きた事象への恐れで青ざめている。


「兄上……今のは、間違いなく……」

「ああ……いかなる巨大な魔法も無に帰す、『魔法を打ち消す魔法アンチマジック』だ。あれが実用化されれば……」


「「各国の軍事バランスが、根底から覆る……!!」」


一人は愛する婚約者の変化に震え、二人の王族は国家のパワーバランス崩壊に震える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ