第34話 マクシミリアン ~平穏なティータイムから一転~
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「マクシミリアン様!? いかがなさいましたの!?」
リリィが慌てて駆け寄るが、彼の耳にはもう何も入っていなかった。顔面は土気色に染まり、全身の毛穴からブワッと冷や汗が噴き出している。
(と、特別講義……だと!?)
マクシミリアンの脳裏に、かつての恐ろしい記憶――絶望のフラッシュバックが鮮明に蘇った。
――『マクシミリアン様、マナの逆位相を検証したいの。私に向かって、全力で炎の魔法を撃ってちょうだい』
(婚約者を焼き殺せるわけがないと断ったのに、彼女は『婚約者が薄情だ』と僕を脅した! そして泣く泣く放った炎は謎の壁にぶつかり……相殺しきれなかった凄まじい爆風で、僕だけが数十メートル吹き飛ばされた!! 彼女は倒れた僕に見向きもせずに、『逆位相のズレが0.02%……再調整ね』とメモを取っていた……!)
――べつの日には、『質量の大きい人体で座標変位量の誤差を測りたいわ。手伝ってちょうだい』
(そう言って、突如僕を崖の上から滝に突き落とした! 彼女は『良いデータが取れたわ』と微笑んでいたが、僕はあの日、本気で死の淵を見たんだ!!)
ガチガチと、マクシミリアンの奥歯が鳴った。
あの女は、知識を分け与えるだけで満足するようなまともな人間ではない。彼女の言う『講義』とは、すなわち『実証』。 つまり、【実地を使った検証】に他ならないのだ!
(そ、そんな! このままでは、国家の未来を担う王太子殿下が、あのアリス・ベレニケの実験体にされてしまう!!)
マクシミリアンは跳ね起きると、一心不乱に駆け出した。
世間からは「アリスを捨て、別の女にうつつを抜かす薄情な男」と蔑まれていることは知っている。
だが、薄情!大いに結構!命の危険に比べればなんてことはない!やっと、あの恐怖から逃れられたのだ。
婚約解消直後は、彼女に懺悔してもらいたかったが、やっと訪れた平穏、今さら彼女に近づくつもりはなかった。
だが、王家に仕える貴族として、いや、『あの恐怖の体験者』としての使命感があった。
(たとえこの身がどうなろうと……殿下たちをお守りしなければ!! あんな地獄を味わうのは、僕とヨハン義兄上だけで十分だ!!)
バーーンッ!!
「失礼いたします!! 殿下!!」
生徒会室の重厚な扉を、マクシミリアンは決死の覚悟で押し開けた。
しかし、そこにカイル殿下たちの姿はない。残っていた役員が、目を丸くして答えた。
「あ、マクシミリアン様。カイル殿下たちなら、先ほど報告を受けに早めにいらした王太子殿下と、後からいらしたアリス様と共に『学園の特別演習場』へ向かわれましたよ。新しい魔法理論の『実地演習』をなさるとかで……」
「お、王太子殿下まで!? じっ、実地演習だと……ッ!?」
マクシミリアンの全身の血の気が引いた。あの女の言う『実地』が、どれほど凄惨な光景を生み出すか。
(なっ!! カイル殿下だけでなく、未来の国王陛下まで巻き添えにする気か!? なんとしても止めなくては!!)
マクシミリアンは絶望に顔を歪めながら、生徒会室を飛び出した。




