第27話 可視化された絶望。壁に踊る狂乱の光
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「まずはベースラインの測定です。……あなたは、王宮の従者ですね?」
「は、はい……」
壁の光は、一定の振幅を保ったまま揺れている。
「では、本題ですわ」
私は声を一段階低くし、彼の網膜を真っ直ぐに覗き込んだ。
「王太子殿下を暗殺しようとし、毒瓶をカイル殿下の部屋に隠したのは、あなたですか?」
「ち、違います!! 私は絶対にやっておりません!!」
従者が叫んだ、その瞬間だった。 壁に映っていた『光の点』が、突如として狂ったように跳ね上がり、壁全体を激しく乱高下し始めたのだ。
「……っ!!」
その劇的な視覚の変化に、王太子殿下もカイル殿下も息を呑んだ。
一方、セドリックは、単純な物理現象で人間の嘘を暴いて見せた彼女の悪魔的な発想力に目を見張った。
「素晴らしい生理的反応ですわ」
私は満足げに頷いた。
「嘘をついたことによる極度の緊張とストレスで、交感神経が急激に活性化し、心拍数と血圧が跳ね上がった。その脈の乱れが、光てこの原理によって壁のスクリーンに如実に表れています。これが物理的な『嘘発見器』ですわ」
「ひっ……!」
己の身体そのものが「嘘をついている」と裏切り、それを可視化されてしまった従者は、絶望に顔を歪ませてガクガクと震え始めた。
「これでもまだ、でたらめだと言い張るか? 逃げ切れると思ったのだろうが……残念だったな」
セドリック様が、氷のような声で従者を見下ろす。
「ま、待ってください! 確かに私は隣国から送り込まれた工作員ですが、王太子殿下の暗殺を目論んだのは今回が初めてで――」
私が無言で壁を指差す。そこでは光の点が、狂ったようなブレ(乱高下)を起こしていた。
「嘘ですね。あなたの交感神経は、過去にも複数回の破壊工作に関与したと告げていますわ」
「ひっ……! じ、実は三年前の書庫の火事も私の手引きで……でも、機密書類の横流しは本当にやっておりません!」
(ピョンッ、ピョンッ、ピョンッ!)
「嘘ですね。完全に波形が乱れていますわ」
「あああああっ! わかりました! 全部、全部話します!!」
言い逃れを試みるたび、壁の光が嘲笑うかのように激しく乱舞する。視線を逸らしても、背後から王太子たちの突き刺さるような冷たい視線が彼を射抜いていた。何を言っても、何を黙っても、全てが見透かされる。己の些細な動揺が、何十倍にも拡大されて壁に映し出され続けるという異常な空間の中で、彼の長年の工作員としての矜持は粉々に打ち砕かれた。
結局、彼は長年にわたって王宮に入り込み、機密を流していたスパイであることを泣きながら全て白状した。 極度の緊張と絶望から完全に精神をへし折られたスパイは、近衛兵に両腕を掴まれると、むしろホッとしたように自ら進んで立ち上がった。
「あ、ああ……どうか早く私を牢へ! あの恐ろしい令嬢の目から遠ざけてくれ……っ!」
極刑が待つ地下牢へ連行されることすら、彼にとっては、この得体の知れない『実験』から解放される喜びに勝っていたのだ。近々、国家反逆罪により極刑に処されることになるだろうが、今の彼にその恐怖は微塵も残っていないようだった。
スパイが慌ただしく連行され、重厚な扉がパタンと閉まる。 嵐が去ったような執務室には、奇妙な静寂が降りていた。




