第26話 逃れられない真犯人。可視化された嘘
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私たちが波長の終着点――真犯人の部屋を特定した直後、事態は急速に動いた。
王太子殿下は、まだ毒の影響で顔色が優れないにもかかわらず、自身の側近に体を預けながら、無理を押して王宮の執務室へと移動した。国を揺るがす大罪の真実を、自らの眼で確かめるためだ。
豪奢な執務室には、重苦しい空気が立ち込めている。 中央に跪かされているのは、カイル殿下の身の回りの世話をすることもあったという、温厚そうな古株の従者だった。
そしてその背後には、王太子殿下の命により近衛騎士たちに囲まれて連行されてきた、カイル殿下の姿があった。
「兄上、お身体は……」
「案ずるな、カイル。それよりも、この茶番を早く終わらせよう」
王太子殿下はカイル殿下を一瞥して短く応えると、冷酷な視線を床に這いつくばる従者へと向けた。
「……さて。セドリックとベレニケ嬢の調査の結果、カイルの部屋から見つかった毒瓶から検出された魔力残滓がお前の部屋まで続いており、お前の魔力とも完全に一致したそうだ。何か言い逃れはあるか?」
「で、でたらめでございます!」
白髪交じりの従者は、涙ながらに床に額を擦り付けた。
「長年王家にお仕えしてきたこの私が、王太子殿下のお命を狙うなど……ましてや、カイル殿下を陥れるなど! そもそも『魔力残滓』とは何のことです!? そのような戯言を証拠と言われましても、あまりに理不尽にございます! 私は無実です!!」
その必死の訴えは、事情を知らない者が聞けば同情を誘うほど真に迫っていた。
「なるほど」 私は腕を組み、フラットな声で言った。
「人間は窮地に陥ると、自己保存の欲求から容易に虚偽の証言を行います。しかし、脳が『嘘』を構築する際、認知負荷が増大し、交感神経系が優位になる。結果として、心拍数の増加、血圧の上昇、微細な発汗といった生理学的な変調が必ず身体に現れるのですわ」
「……はぁ?」
従者は(何を言ってるんだこいつ)という目で私を見る。私は自分のポケットを探り、手鏡を取り出した。そして、近くにあった文鎮をハンマー代わりに使い、手鏡を躊躇なく叩き割った。
パリンッ! という派手な音に、王太子殿下もカイル殿下も目を丸くする。 私は割れた鏡の破片の中から、適度な大きさの欠片を拾い上げると、セドリック様を振り返った。
「セドリック様。彼の手首を上に向けて固定していただけますか?」
「ああ、任せろ」
有能な側近は、私の意図を尋ねることなく即座に従者の右腕を掴み、手首を強引に上へ向けさせた。私はその手首の脈打つ部分――橈骨動脈の上に、鏡の破片を密着させて細く裂いた布(包帯)でミラー部分を覆い隠さないよう固定した。
「……アリス嬢?いったい何をしてるんだね?」
カイル殿下が怪訝そうに尋ねる中、私は執務室の机から魔力灯を一つ拝借し、カバーを外して光を一点に絞った。そして、その強い光を、従者の手首に貼り付けた『小さな鏡』に向けて照射した。
「あちらの壁をご覧ください」
私が指差した先。執務室の白い壁に、魔力灯の光を反射した小さな『光の点』が映し出されていた。 その光の点は、ドクン、ドクンという一定のリズムに合わせて、壁の上で小さく上下に揺れている。
「……光が、動いている?」
「ええ。物理学における『光てこ(Optical lever)』の原理ですわ。手首の脈拍という極めて微細な振動でも、反射する光の距離を長く取ることで、壁に映る動きは何十倍にも増幅されて可視化されます。今の彼のリズムは、一分間に約七十回といったところですね」
私は従者の前にしゃがみ込み、冷徹な研究者の目で彼を見据えた。
「さあ、実験を始めましょう」




