第24話 絶対の反証。真犯人を追う
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「……アリス嬢? どうした?」
私の視線が完全に別の何かに気を取られていることに気づき、セドリック様が不思議そうに声をかけてきた。
「ええと……あの壁ですわ」
私が指をさすと、セドリック様もつられるように視線を向け、瞬時に己の瞳に『フィルター』を展開した。
「……ん? なぜ、あの壁の『一箇所』にだけ、王太子殿下の魔力残滓がたっぷりと付着しているんだ……?」
セドリックは、王太子殿下の目の前だということも忘れ、純粋な疑問を無意識に呟いた。
「ですよね? 見るからに何の変哲もない普通の壁ですよ?」
「ああ。周囲の壁には日常的な生活の波長が薄く広がっているだけなのに、あのピンポイントな部分にだけ、殿下の波長が何層にも極めて濃厚に定着している。……まるで、毎日そこを特定の圧力で押し込んでいるかのような……」
「なっ……!?」
私とセドリック様が、二人して壁の『物理的異常』について考察を深めていると、ベッドの上からひっくり返りそうな声が上がった。 見れば、王太子殿下が顔面を蒼白にし、私たちが指差した壁と、私たちの顔を信じられないものを見る目で交互に見ていた。
「き、君たち……まさか本当に、『見えて』いるのか……!?」
王太子は驚愕に震えていた。
(あそこは王族の緊急時用の隠し通路だぞ……!? 絶対の機密であるはずの場所を、部屋に入ってきたばかりで、一切触れることもなく言い当てるなど……!)
私は、殿下がなぜ突然青ざめているのか全く理解できなかったが、とにかく彼が私たちの『視界(観測結果)』を事実として認めてくれたことだけは察して、無邪気に微笑んだ。
王太子は深い溜息をつき、ベッドの背もたれにドサリと体を預けた。
「……信じられない話だが、認めざるを得ないようだな。あんな場所、視認できなければ絶対に言い当てられるはずがない」
「殿下……!」
「分かった。証拠保管室への立ち入りを許可しよう。ただし、条件通り『絶対に触れない』こと。そして、必ず私を納得させるだけの結果を持ち帰ることだ」
「御意!!」
セドリックは深く頭を下げると、バッと立ち上がった。
こうして私たちはついに、王宮の奥深くに保管された証拠品を直接調べる許可を得たのである。
王宮の地下深く、冷たい石造りの証拠保管室。 厳重な結界が張られた台座の上には、証拠品である「毒の小瓶」が、分厚いガラスケースに収められたまま静かに鎮座していた。
「触れることは禁じられていますが、観測には何の問題もありませんわ。
さあセドリック様、眼球の周囲にマナを集中させ、波長を同期させてください」
「……ああ」
私たちはケースの前に立ち、瞳に『フィルター』を展開した。 瞬時に、世界が極彩色の波長の海へと変貌する。毒の小瓶には、これを回収・鑑定したであろう数人の魔法省の役人たちの魔力残滓(波長)が、ベタベタと付着していた。 だが、その真新しいノイズ(役人たちの波長)の下に、全く性質の異なる、淀んだ色の波長がうっすらとこびりついているのを、私たちの眼は確実にとらえていた。
「見えますか?」
「ああ。……鑑定を行った役人たちのものとは違う、異質な周波数だ。これが、瓶を仕込んだ真犯人の魔力残滓……!」
「ええ。その波長の形、振幅、そして固有の振動数を、脳内にしっかりと記録してください。それが真犯人の『指紋』です」




