第23話 絶対的な反証と、全く空気を読まない視線
王太子の寝室は、豪奢な天蓋付きのベッドと、不要なほどに魔力灯が焚かれた広大な空間だった
(熱効率が悪そうな部屋ね……)と私が天井を見上げている間に、セドリックはベッドの前に進み出て、深く、そして悲痛な面持ちで片膝をついた。
「王太子殿下。お目覚めになられたこと、心より安堵いたしました。……ですが殿下、どうかカイル殿下をお救いください!カイル殿下は決して、兄君である貴方に刃を向けるような方ではございません!」
ベッドの上に半身を起こした王太子殿下は、まだ顔色こそ蒼白だったが、その双眸には次期国王としての鋭い知性が宿っていた。
「……分かっているよ、セドリック。カイルには私を暗殺する動機がないし、何より、暗殺に使った毒瓶を自身の部屋に隠しておくような愚か者ではない。十中八九、何者かの罠だろう」
「ならば!」
「だが、物的証拠が出てしまった以上、法と規律が私を縛る」
王太子は苦しげに首を振った。
「鑑定調査でも、あの瓶に残っていた毒と私が飲まされた毒は完全に一致した。カイルの無実を証明する『絶対的な反証』がない限り、私個人の感情で彼を解放することはできないのだ」
重苦しい沈黙が寝室に落ちる。だが、セドリックは顔を上げ、かつてないほど力強い光を瞳に宿して王太子を真っ直ぐに見据えた。
「……その『絶対的な反証』を提示する方法が、一つだけあります。先日、私が殿下にご報告した『魔力残滓』です」
王太子が微かに目を細めた。そして、私の方をちらりと一瞥する。
「……王立研究所の学者たちが、寄って集って『狂人の落書きだ』と匙を投げた、あのレポートのことか」
「あれは仮説ではなく、事実です。……今や、この私にも、魔力残滓(マナの波長)をはっきりと『視認』することができます。証拠品の瓶を観測させていただければ、必ず真犯人を特定してみせます!」
セドリックの熱のこもった訴えだった。
だが、王太子は信じられないというように眉間に皺を寄せた。
「弟の優秀な側近である君の忠義は評価するが……王宮の最高頭脳が束になっても解明できなかった理論を、君がすでにマスターしたと言うのか? にわかには信じ難いな。君がカイルを救いたいがために、出鱈目を――」
王太子とセドリック様が緊迫したやり取りを続ける中、私は完全にその会話から意識が外れて、寝室の壁の一点に釘付けになっていた。
(おかしいわね。あの壁の一点だけ、異様にエントロピーが偏っている……)




