第20話 蹴破られた扉……
――生徒会室の重厚な扉が、乱暴に蹴破られた。
「カイル殿下! 反逆の容疑で同行を願います!」
雪崩れ込んできたのは、重武装した王宮の近衛兵たちだった。
抜身の剣を向けられ、セドリックは即座に主君を庇うように前に出る。
「何事だ! 第二王子殿下に対し、無礼であろう!」
「退け、セドリック・ヴァレリウス! これは王宮からの勅命である!」
近衛隊長が冷酷な声で告げた事実に、二人は息を呑んだ。
「一時間前、王太子殿下が何者かに毒を盛られ、倒れられた。解毒魔法により、一命は取り留めたものの、現在も意識不明の状態。……そして、王太子殿下が最後に口にされたワイングラスから検出された毒の瓶が、カイル殿下の部屋から発見されたのだ!」
「なっ……!?」
セドリックは驚愕した。そんな馬鹿な。カイルはこの数時間、ずっと生徒会室で執務をしていたのだ。誰かが、王太子を暗殺してカイルに罪を擦り付けようとしている。
「……待て、セドリック。剣を引け」
反論しようとした側近を、カイルが静かな声で制した。
カイルは完全に事態を理解していた。ここで近衛兵と斬り合えば、暗殺未遂が「事実」として確定してしまう。敵の包囲網はすでに完成しているのだ。
「同行しよう。だが、私は決して兄上に危害など加えていない」
「申し開きは牢の中で聞こう。連行しろ!」
カイルは抵抗することなく、兵士たちに囲まれて連行されていく。残されたセドリックは、ただ呆然と、主君の後ろ姿を見送ることしかできなかった。
* * *
王宮の近衛兵たちが去り、嵐が過ぎ去った後のように静まり返った生徒会室。
セドリックは、床に落ちたカイルのペンを見つめたまま、立ち尽くしていた。
完璧な側近であるはずの彼が、今、完全に思考の海で座礁している。
(カイル殿下が、王太子殿下を暗殺? ありえない。だが、グラスから検出された毒の瓶が殿下の部屋から見つかったのなら、この物証を覆すことは難しい……)
「……セドリック様。先ほどの実技で浮遊させていた『生徒会の決裁書類』をお忘れでしたので、お届けに上がりましたが……」
不意に、のんびりとした、この場に全くそぐわない声が響いた。
声の方へ視線を向けると、入り口に、数枚の紙束を持ったアリスが立っていた。
彼女は室内の散乱した椅子や、セドリックの青ざめた顔を見るなり、小さく首を傾げた。
「……ずいぶんと室内のエントロピーが増大していますね。物理的な衝突でもありましたか?」
アリスのどこまでもフラットな問いかけに、セドリックはハッと我に返った。




