第18話 油断した王子と、してやったりの側近
※第18話・第19話は同時投稿です
その頃、研究室にいたアリスは、窓の外を眺めながら……。
(……そろそろセドリック様が、生徒会室で実技を開始する時刻ね。私の計算が正しければ、彼はマナの出力密度を完璧に制御し、摩擦抵抗のないスムーズな運搬を実現しているはずだわ)
アリスは、自分が教えた「位置エネルギーの保存」と「運動量の制御」が、この世界に浸透してくれるのを期待していた。
(あんなに美しい『演算能力』を持つ彼だもの。きっと、これまでの魔法の定義という名の不自由な縛りから、解き放たれているはず。……受け入れてもらえるかしら……きっと大丈夫……ふふ)
アリスは、自分が持ち込んだ物理学の概念が、学園の権力の中枢で試される瞬間を思い、楽しげに目を細め、先ほどまでセドリックが練習していた席を見た。
「あら、あれは……」
* * *
生徒会室。セドリックは、自らの執務机で作り終えた三枚の決裁文書を見つめた。
彼は、アリスから教わったように、魔力を「属性」に変えるのではなく、ただの「掴む力」として空間に配置した。
「決裁をお願いいたします」
セドリックが声をかけながら、指先を軽く、カイルの机の方へ向けた。
その瞬間、カイルの視界の端で何かが動いた。
「……あ?」
カイルが顔を上げると、そこには信じられない光景があった。
三枚の書類が、まるで透明な糸で引かれているかのように、美しく整列したまま空中を滑走していたのだ。それも、ただ飛んでいるのではない。空気の揺らぎも、魔法独特の光の漏れも一切なく、まるで「そこを飛ぶことが当たり前である」かのように、静かに、そして正確にカイルの手元へ向かってくる。
カイルの手から、ポロリとペンが滑り落ちた。
パチ、パチ、と瞬きをし、目の前の光景を認識しようとするが……常識と目の前の現実が全く噛み合わず、彼の優秀な頭脳は完全にショートした。
「はあああああああああああああ!!!!!!?」
生徒会室に、カイルの悲鳴に近い絶叫が響き渡った。
カイルはガタッと椅子ごと後ろに退き、空中に張り付いたままの書類と、涼しい顔をしているセドリックを震える指で交互に指差した。
「ま、待て、何だこれ!? 浮いている!? いや、詠唱も魔力光もない、風属性ですらないぞ!? セドリック、君は今、一体何をしたんだ!?」
椅子から転げ落ちそうになりながら叫ぶ主君に対し、セドリックは満足げな笑みを微かに浮かべ、優雅に一礼した。
「申し上げたはずです。効率化だと」




