第15話 隠しきれない側近と鋭い王子の観察眼
※第14話・第15話は同時投稿です。
セドリックがいつものように生徒会室の扉を開けたとき、カイルは既に執務机についていた。
「お疲れ様、セドリック。今日も、来るのが遅かったようだね」
「……申し訳ありません。少々、図書室での調べ物に時間を取られました」
セドリックは平静を装い、いつものように王子の机に整理された書類を並べていく。 彼は、アリスから講義を受けていることをカイルには伝えていない。
もし好奇心旺盛なカイルがこの事実を知れば、必ず首を突っ込んでくる。そうなると事が大きくなり、アリスとの静かな「研究時間」が失われてしまうと直感していたからだ。
が、セドリックは一つ、大きな思い違いをしていた。
本人は完璧に「平静を装えている」つもりだった。確かに、女性嫌いを克服したわけでも、アリスに恋をしたわけでもない。しかし、今の彼は「未知の力を手に入れる」という知的な興奮に包まれており、その熱が無意識のうちに態度へと漏れ出していたのである。
カイルは、書類へ目を落とすふりをしながら、側近の僅かな変化を観察していた。
(……ほう。セドリック、君は自分では隠せていると思っているようだけど…
いつもなら一瞥してすぐに自身の執務に取り掛かるが、今日はほんの数パーセントだけ足取りが軽い。無機質な瞳の奥に、微かな熱が灯っている)
***
セドリック様が講義を終えて去った後の研究室。私は、彼が残していった質問事項を眺めながら、満足げにペンを置いた。
(セドリック様の理解の深さは、私の予想を超えているわね。既存の『属性魔法』というノイズの多い回路をバイパスして、物理学という最短経路を構築しようとしている。彼の脳内で行われている情報処理の『同期』は、もはや一つの美しい数式のようだわ)
前世では、誰かに自分の理論を説明しようとすれば、まずは前提となる膨大な定義の共有が必要だった。だが、彼という優れた受信機は、最小限の記述から法則の核心を読み取ってしまう。
(この効率的な知の相互作用。……これが、対話によるポジティブ・フィードバックというものなのね)
私は、次回の実技に向けて、マナの出力密度を制御するための「減衰曲線」を黒板に描き始めた。




