第14話 高スペックな側近
※第14話・第15話は同時投稿です。
セドリック様との秘密の講習が始まって、一ヶ月が経過した。 研究室の黒板に、私は「合格」を意味する大きな円を描いた。
「おめでとうございます、セドリック様。原理の理解はおおかた大丈夫ですね。次からは、いよいよ実技に入りましょう」
私の言葉に、セドリック様は僅かに安堵の息を漏らした。
正直なところ、私は驚愕していた。前世の大学生でも数ヶ月はかかるであろう物理学の基礎概念を、彼はわずか一ヶ月で、しかも「魔法」というバイアスを抱えた状態で咀嚼してみせたのだ。
(学園トップクラスの頭脳……いえ、彼の脳内における情報処理の『並列化』と『最適化』のレベルが違いすぎるわね。これほどの高スペックなCPU……知性を備えた人物と出会えたことは、私の研究にとっても大きな利益だわ)
物理と魔法の境界線を共に歩める「観測者」の存在。それは、孤独に慣れきっていた私の心に、未知の期待という名の熱量をもたらしていた。
***
「実技……。やっと、あの現象を自ら再現できるのか」
セドリックは、自分の指先をじっと見つめた。
この一ヶ月、彼のこれまでの常識は完膚なきまでに叩き壊された。 魔法は「祈り」でも「イメージ」でもなく、明確な数式と法則に基づいた「力の指向性」であるという概念。それを受け入れ、血肉とする作業は、これまでのどんな高難度魔法の習得よりも困難を極めた。
(アリス嬢が言っていた『慣性』や『作用反作用』……。既存の属性魔法という枠組みを一度捨て去らなければ、彼女の到達している領域には触れることすらできない)
最後の座学を終え、セドリックは生徒会室での執務に向かうべく立ち上がった。 次からは、実際に物質を動かす実技が始まる。その高揚感が、彼の冷徹な仮面の裏側で、静かに、だが確かに波打っていた。




