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【完結】無自覚転生令嬢の物理魔法  作者: 深谷 汎
第8章 代替魔導具 と 物理学普及

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第121話 古代魔道具の内部

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古代魔道具の分解は、慎重に進められた。


初めに魔力遮断布が取り除かれ、装置全体の魔力反応が改めて測定される。


外装にも、地底湖で確認した時と同じく、目立った魔力反応はなかった。


研究員たちは装置をあらゆる方向から観察し、細部まで図面へ記録していく。


取り外す部品には番号を付け、元の位置と向きが分かるよう印を残す。


一つの部品を外すたびに作業を止め、内部に変化がないことを確かめてから、次の部品へ移った。


取り外した部品は、決して別の場所へ移されなかった。


専用の台座へ置き、周囲の魔力反応と温度、重量まで記録する。


復元する時に、わずかな位置のずれが起動に影響する可能性があるためである。


最初に取り外されたのは、外側を覆っていた厚い板だった。


その内側から、水中へ伸びていた管につながる複数の通路が現れる。


通路は装置の中心へ真っ直ぐ続いているわけではない。


途中で細くなり、緩やかに曲がりながら、円形の空間へつながっていた。


アリスは、その形を見つめた。


「……これは」


何かが、記憶に引っかかった。


初めて見る古代魔道具の内部である。


部品の形も、使われている材質も、前世に存在した機械とは異なっている。


それにもかかわらず、その配置には妙な既視感があった。


「アリス、何か気づきましたか?」


セドリックが尋ねる。


「まだ、はっきりとは分かりませんわ。ただ、この水の通り道……どこかで見たことがあるような気がしますの」


アリスは図面へ、水が流れる方向を書き加えた。


管を通って入った水は、途中で狭い部分を通る。


その先には、斜めに傾けられた何枚もの板が、円を描くように並んでいた。


「こちらの板は、何のためにあるのでしょうか?」


研究員の一人が尋ねた。


「水を流してみれば分かるかもしれませんわ」


実物へ水を通すことは危険なため、同じ形の小さな模型が作られた。


管から水を流す。


勢いを増した水が斜めの板へ当たると、板を取り付けた円形の部品が回転を始めた。


「回りました!」


研究員が声を上げる。


アリスは回転する模型を見つめたまま、何も答えなかった。


既視感が、少しずつ形を持ち始めている。


さらに分解を進めると、円形の部品の中心から、一本の軸が装置の奥へ伸びていることが分かった。


軸の先には、大きさの異なる歯車がいくつも組み合わされていた。


その奥には、厚く重い円盤。


さらに、一定以上の水圧が加わった時にだけ開く、別の水路も設けられている。


アリスは、それぞれの寸法を測った。


管の太さ。


水が当たる板の角度。


軸の長さ。


歯車の大きさと、歯の数。


円盤の直径と重さ。


数字を紙へ書き並べ、計算を始める。


セドリックも隣に座り、別の紙へ部品同士のつながりを書き出していた。


「水がこの細い部分を通ることで、流れる速さが増します」


セドリックが図面を指し示す。


「その水が斜めの板へ当たり、円形の部品を回転させる。その回転が、軸を通して歯車へ伝わっているのですね」


「ええ。そして、歯車で回転の速さと力の大きさを調整していますわ」


アリスは計算結果と、実物の歯車を見比べた。


一致している。


歯車の大きさは、適当に決められたものではなかった。


水から得た力を、装置の中心へ伝えるために計算された比率になっている。


厚く重い円盤にも役割があった。


水の流れに僅かな変化が起きても、回転が急激に速くなったり遅くなったりしないよう、動きを安定させるためのものだった。


別に設けられた水路は、強すぎる水圧を外へ逃がし、装置が壊れるのを防ぐ。


分解を進めるほど、アリスの前に並ぶ部品は、前世で見た機械の構造へ近づいていった。


外見は異なる。


使われている技術も、全てが同じではない。


だが、水の力を受け取り、回転へ変え、その力を安定させながら中心部へ伝える流れは同じだった。


「まさか……」


アリスは呟き、再び最初の部品から順番に図面を見直した。


水圧。


流速。


回転運動。


歯車による力の伝達。


余分な圧力を逃がす仕組み。


部品の配置だけではない。


全てが、力学と流体の性質を理解したうえで組み立てられている。


「アリス?」


セドリックの声にも答えず、アリスは新たな計算を始めた。


水路の断面積から、流速を求める。


板へ水が当たる角度から、軸に加わる力を求める。


歯車の比率を使い、装置の中心へ伝わる回転の速さを導き出す。


計算によって得られた数値は、古代魔道具の各部品の寸法と、ほとんど誤差なく一致した。


偶然ではない。


長い年月をかけ、経験だけを頼りに形を整えたものでもない。


この装置を作った者は、初めから計算していた。


水がどのように流れるのか。


どの角度で力を受ければ、効率よく回転へ変えられるのか。


その回転を、どのように安定させて中心部へ伝えるのか。


それらを、理解していた。


「この装置は、魔法だけで作られたものではありませんわ」


アリスの言葉に、周囲の者たちが作業を止めた。


王太子が、広げられた図面へ近づく。


「どういうことだ?」


アリスは、分解された部品を順番に指し示した。


「この水路は、水圧を速い流れへ変えるためのものです。その流れを斜めの板で受け、回転運動へ変えています。歯車は回転の速さと力を調整し、重い円盤は動きを安定させる。そして、強すぎる水圧は別の水路へ逃がすよう設計されています」


「それが、物理学によるものだというのか?」


「はい」


アリスは、自分の計算を書き込んだ紙を王太子へ差し出した。


「部品の寸法も、板の角度も、歯車の比率も、計算した結果と一致しています。これほど多くの部分が、偶然に一致することはあり得ません」


王太子は紙へ目を落とし、しばらく黙っていた。


セドリックも、装置の内部と図面を交互に見比べる。


「つまり、この古代魔道具を設計した者は、水の力を魔石へ移す前に、物理的な仕組みによって力を集め、調整していたのですね」


「そのとおりですわ」


アリスは、まだ分解されていない装置の中心部へ目を向けた。


そこには、集められた力が最後に送り込まれる、幾重もの輪に囲まれた部品が残されている。


物理的な力が、どのようにして水属性の魔力へ変えられ、魔石へ移されていたのか。


最も重要な仕組みは、まだ分かっていない。


「まずは、ここまでの構造を正確に記録し、取り外した部品を元の位置へ戻しますわ」


アリスは、中心部を見つめたまま続けた。


「この装置を動く状態へ復元できれば、力がどのように中心部へ集まり、魔石へ伝わるのかを確認できます。代替魔道具を完成させるのは、その後ですわ」


王太子が頷く。


「古代魔道具を理解し、その仕組みを再現する。それが、火山抑制装置を完成させるための第一歩ということだな」


「はい。水の力を扱う装置として復元できれば、次に、その変換機構を火山の熱や圧力へ応用できますわ」


古代魔道具は、まだ沈黙したままだった。


だが、その内部には、起動へ至る道筋が少しずつ見え始めている。


古代文明は、魔法だけで栄えた文明ではなかった。


彼らはかつて、アリスと同じように、世界を物理学によって理解していたのである。


そして今、アリスたちはその知識を、再び動かそうとしていた。

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