第116話 石のお守りの正体
湖岸で見つかった石柱の正体を確かめるには、魔力を失った石を再び使える状態へ戻す必要があった。
その時、水属性の研究員が、地底湖で採取した石を取り出し
「この石には、まだ僅かに魔力を保持する性質が残っています」
「再び水の魔石へ戻せますか?」
アリスが尋ねる。
「長期間は使えないと思いますが、少量の魔力を注ぐだけなら可能です」
研究員は地底湖から採取した石を両手で包み、水属性の魔力を少しずつ流し込んだ。
灰色だった石の内部へ、淡い青色の光が宿っていく。
やがて石全体が、水の魔石と同じ反応を示した。
「これで、短時間なら水属性の魔石として使えるはずです」
アリスは、石柱から取り外した石の代わりに、その魔石を窪みへはめ込んだ。
全員が石柱を見守る。
しかし、何も起こらなかった。
「違ったのでしょうか」
リリィが不安そうに尋ねる。
「いいえ。魔石の形と窪みは一致していますわ」
アリスは石柱の周囲を調べた。
魔石をはめ込む場所の下には、僅かな溝がある。
石柱の根元にも、地面との境界を囲むように円形の線が残っていた。
「この石柱も、回転するのではありませんか?」
セドリックが尋ねる。
神殿跡地の四本の柱と似ている。
ただし、長年動かされていないため、根元が土と苔で固まっていた。
騎士たちが周囲を清掃し、石柱へ縄を掛ける。
「ゆっくり回してくださいませ」
アリスの指示を受け、数人の騎士が縄を引いた。
初めは動かなかった。
さらに力を加えると、石柱の根元から石が擦れる音が響いた。
柱が僅かに回転する。
内部で、小さな音がした。
もう少し回す。
その瞬間、石柱の側面に刻まれていた細い溝から、水が流れ出した。
「水です!」
リリィが声を上げる。
初めは細かった流れが、次第に安定していく。
透明な水が石柱の側面から流れ、地面へ小さな水溜まりを作った。
石柱を元の位置へ戻すと、水は止まった。
再び回すと、また流れ始める。
「水を出したり止めたりするための装置ですわ」
アリスは魔石を取り外した。
すると、石柱を回しても水は出なくなった。
内部には水源へ続く管がなく、魔石から得た力によって水を生み出していると考えられた。
「ランバート領に残っている石柱は、全てこのために設置されたのかもしれません」
リリィは、石柱から流れる水を見つめた。
村の広場。
畑の端。
屋敷の庭。
領内の各地に、同じ石柱が残されている。
古代文明の時代には、地底湖の装置で水圧から水の魔石を作り、それを各地の石柱へ運んでいた。
領民は魔石を柱へはめ込み、必要な時に水を得ていたのだ。
「水が少ない土地でも、水の魔石があれば生活できたということですか?」
「はい。農地でも、飲み水にも利用していたのでしょう」
そして、この湖へ沈んだ村は、神殿と地底湖のすぐそばに存在していた。
おそらく、古代魔道具の管理と、生成された魔石の回収、領内への分配を担っていた村だった。
しかし、古代魔道具が停止した。
水圧を受け止めていた装置が動かなくなり、地下水は別の方向へ出口を求めた。
岩壁を抜けた水は、村のあった窪地へ流れ込んだ。
「水の魔石を作り、人々へ水を届けていた村が……」
リリィの声が震える。
「装置が止まったことで、水に沈んでしまったのですね」
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
湖面は静かに揺れている。
その下には、かつて神殿と古代魔道具を守っていた小さな村が眠っている。




