第115話 水圧の向かう先
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神殿跡地へ戻った一行は、地下で記録した方角を地上の地図へ重ねた。
水が向かっていたのは、草原とは異なる方向だった。
神殿跡地の西側。
山脈から張り出した二つの山の間に、深い森が広がっている。
その奥には、別の岩壁があるはずだった。
「草原からでは、山の斜面に隠れて見えませんね」
レオナルドが周囲の地形を確認する。
「森の中へ入れば、かなり奥まで進むことになるのではありませんか?」
「地底湖からの距離を考えれば、それほど遠くはありませんわ」
アリスは記録した方角を指した。
「水圧によって新しい水路ができたのであれば、この延長上に水が出た場所があるはずです」
日が沈むまでには、まだ時間がある。
カイルは地底湖へ持ち込んだ装備の一部を地上の調査員へ預け、必要な者だけで森へ向かうことを決めた。
一行は神殿跡地の脇を抜け、二つの山に挟まれた森へ入った。
草原側の森よりも木々が密集し、人が通った跡はほとんどない。
案内役の猟師でさえ、この区域へ入った経験はなかった。
「幼い頃から、神殿跡地へは近づかないように言われていました。ですから、神殿跡地の西側にも、当然近づくことはありませんでした」
森の中を進むにつれ、地面の傾斜が変わり始めた。
初めは平坦だった地面が、奥へ向かって緩やかに低くなっている。
大きな窪地へ下っているような地形だった。
さらに進むと、木々の隙間から光が差し込んできた。
「森が途切れています」
先頭の騎士が枝をかき分ける。
その先へ出た者たちは、一斉に足を止めた。
森の奥に、湖が広がっていた。
地底湖ほど大きくはない。
それでも、対岸まで相当な距離がある。
湖の向こう側には、山脈の岩壁がそびえていた。
岩壁の下部には黒く濡れた場所があり、そこから絶えず水が流れ出している。
「こんな場所に、湖が……」
リリィが呟いた。
ランバート領の地図に、この湖は記されていない。
領民の間でも、水源があるという話は聞いたことがなかった。
「地底湖で確認した方向と一致しています」
調査員が方位と距離を記録する。
「岩壁の向こう側に、先ほどの地底湖があると考えられます」
アリスは湖へ近づき、水の流れを確認した。
岩壁から流れ出した水は、窪地へ溜まり続けている。
しかし、湖の水位が急激に上昇している様子はない。
窪地へ溜まった水は湖になり、また別の岩壁の隙間に流れ込んでいるようだった。
「地底湖の水圧が岩壁の亀裂を広げ、こちら側へ抜けたのでしょう」
「それで、この窪地へ水が溜まったのですか?」
リリィが湖面を見つめる。
「おそらくは」
湖岸の周辺には、大きな木が幾つも育っている。
この湖が最近できたものではないことは明らかだった。
調査員たちは湖岸を歩き、周囲に人工物が残っていないか調べ始めた。
やがて、湖より少し高い場所で、規則的に並ぶ石が見つかった。
建物の土台と思われる石。
途中で途切れた道。
湖の中へ向かって続いている低い石壁。
「ここに、何か建っていたようです」
エレノアが地面へ残された石を確認する。
「しかも一軒ではありません。複数の建物が並んでいました」
近くには、数本の果樹も残っていた。
長い年月の間に枝は大きく広がっているが、木々は不自然なほど等間隔で並んでいる。
かつて人の手で植えられた果樹園の一部だと考えられた。
「湖に沈んだ村……」
リリィが、湖へ沈んでいく石壁を見つめた。
記録に残されていた村は、この場所にあったのかもしれない。
果樹の近くには、一本の石柱が立っていた。
人の背丈ほどの高さがあり、中央部分に円形の窪みがある。
表面は苔と土に覆われているが、ランバート領内の集落や田畑で見かける古い石柱と同じ形だった。
「石のお守りと一緒です」
リリィが言った。
石柱の周囲には、灰色の石が幾つも転がっていた。
地底湖で採取した魔石と、大きさも形もよく似ている。
しかし、どの石からも魔力は感じられなかった。
石柱の窪みにも、一つの石がはめ込まれている。
アリスが取り外して調べたが、完全に魔力を失っていた。
「同じ石ですわ」
「では、この柱も地底湖の古代魔道具と関係があるのですか?」
リリィが尋ねる。
「その可能性は高いと思います」
しかし、石柱が何をするためのものなのかは分からない。
古代文字も残されておらず、動かせる部分も見当たらなかった。
少なくとも、魔力を失った石のままでは、その正体を確かめることはできなかった。




