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【完結】無自覚転生令嬢の物理魔法  作者: 深谷 汎
第7章 ランバート領 と 新たな謎

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第111話 山脈の地下へ

※毎日 朝5時に予約投稿で更新中

翌朝。


出発時刻を遅らせることなく、一行は領主館を出発し、再び神殿跡地へ向かった。


調査隊全体の人数は、昨日より増えている。


ただし、地下へ入るのは、護衛と調査に必要な者だけに絞ることにした。増員された騎士と調査員の多くは地上へ残り、入口の監視や連絡、予備の装備の管理を担当する。


携帯灯。


予備の油。


縄。


壁へ目印を残すための道具。


空気の状態を調べる器具。


階段や床の強度を確かめるための棒。


予備の食料と水も、それぞれの荷物へ分けて入れられていた。


森と草原を抜け、一行が崖の前へ到着すると、夜通し遺跡を見張っていた騎士たちが駆け寄ってきた。


「夜間、異常はありませんでした。遺跡へ近づいた者もおりません」


報告を受けたカイルは、四本の柱に囲まれた石畳へ目を向けた。


昨日、地下への入口を閉じた石畳は、そのままの状態を保っていた。


柱の位置と石畳の継ぎ目へ付けておいた印にも、ずれはなかった。


カイルは頷き、指示を出す。


「周囲の安全を確認した後、入口を開ける。何が起きても、すぐに退避できるよう準備しておけ」


騎士たちが四本の柱を囲むように配置についた。


調査員たちは昨日作成した図面を広げ、それぞれの柱に付けた印と、石畳に刻まれた線を照合した後、弧状の溝に沿って動く三本の柱を回転させた。


硬い音が響き、柱が所定の位置へ収まるたび、石畳の下で金属の部品が動く音がした。


そして、最後の柱を直線の溝に沿って動かすと、昨日発見した石造りの階段が、再び姿を現した。


地下から吹き上がる冷たい空気には、湿った匂いが混じっている。


「柱を固定しろ。調査中に仕掛けが動かないようにするんだ」


カイルの指示を受け、騎士たちは柱の根元へ楔を差し込み、太い縄を使って現在の位置へ固定した。


入口の両側には騎士が配置され、地上には数名の騎士と調査員が、柱と入口を監視することになった。


「決めた時刻までに戻らなければ、領主館へ連絡しろ。救援が来るまで地下へ入ろうとするなよ」


「承知いたしました」


続いて、空気の状態を調べる器具を縄へ取り付け、階段の奥へ下ろしていった。


地上から確認できる範囲を越え、昨日は調べられなかった深さまで慎重に下ろした。


しばらく置いた後で引き上げ、調査員が反応を確認する。


「現時点では、人体に害のある反応はありません。地下から空気も流れてきていますが、奥まで同じ状態とは限りません」


エレノアが暗い階段を見下ろした。


「先へ進む間も、一定の距離ごとに確認を続けましょう。異常を感じた者が一人でもいれば、すぐに引き返すべきです」


「わかった」


カイルは全員を見回した。


「油を使う灯りは、空気の安全を確認した場所でのみ使用する。先頭は明かりの魔法を使い、空気の状態と床の安全を確かめながら進め」


地下へ入る者たちが、入口の前へ集まった。


「通路の状態は分からない。壁や天井へ不用意に触れるな。異変を感じた者は、すぐに声を上げろ」


カイルが隊列を確認した。


「先頭は騎士二名。その後ろに、空気と通路の状態を調べる調査員。アリスとセドリックは中央を進め。分かれ道があっても、勝手に進むことは禁止する。一定の間隔で、必ず壁へ印を残せ」


騎士たちが声をそろえて返事をした。


その間に、マクシミリアンはリリィの隣へ移動していた。


「リリィ。必ず私の側にいるのだ。足元が危険なら、すぐに言ってくれ」


「はい、マクシミリアン様」


「疲れた時もだ。無理をして歩く必要はない」


二人のやり取りを横目に見ながら、セドリックもアリスの側へ立った。


「アリスも、私から離れないでください」


「ですが、調査のために動く必要がございますわ」


「その時は、私も一緒に動きますから、絶対に離れないでください」


「セドリック様まで一緒に動かれますと、狭い場所では調査がしにくいのですわ」


「それでも、アリスの安全には代えられません」


アリスは黙って俯いた。


カイルは、その二組を見て僅かに考えた後、エレノアへ向き直る。


「エレノア嬢。危険だから、あなたも私の側を離れないように」


「私は、自分の身くらい守れます。殿下こそ、私の側から離れないようにしてください」


即座に返され、カイルの表情が僅かに固まった。


「……承知した」


隊列が整うと、明かりの魔法で白い光を浮かべた先頭の騎士が、長い棒で一段ずつ確かめながら、階段を下り始めた。


石造りの階段は、想像していたよりも長かった。


一段ごとの高さが僅かに異なり、所々に亀裂が入っている。


壁には水分が浮き、魔法の光を鈍く反射していた。


調査員は空気の状態を確かめながら進み、安全が確認されたところで、後方の者たちが携帯灯へ火を入れた。


二十段ほど下りたところで、周囲の様子が変わった。


初めは規則正しく切り出された石で囲まれていた壁が、少しずつ凹凸のある岩肌へ変わっていく。


天井も一定の高さではなくなり、自然にできた洞窟を削り広げたような形になっていた。


「神殿の地下施設というより、山の中の洞窟を利用しているようですね」


レオナルドが携帯灯を高く掲げる。


「方角を確認します」


調査員が道具を取り出し、地上で記録した位置と照らし合わせた。


「通路は、山脈の内側へ向かっています。緩やかですが、さらに下っているようです」


先へ進むほど、地上から差し込んでいた光は遠ざかっていった。


聞こえるのは、靴底が岩を踏む音と、どこかで水滴が落ちる音だけだった。


通路は、人が二人並んで歩けるほどの幅がある。


しかし、床には崩れた岩や窪みが多く、気を抜けば足を取られそうだった。


アリスは、岩壁の下に円形の窪みを見つけて足を止めた。


「こちらは、自然にできたものでは――」


窪みへ近づこうとした瞬間、セドリックがアリスの手を掴んだ。


「そこは危ない」


セドリックは携帯していた棒で、アリスの足元を軽く突いた。


表面を覆っていた薄い岩が崩れ、その下に深い亀裂が現れる。


落ちた小石が底へ当たる音は、すぐには返ってこなかった。


アリスは亀裂と、自分の手を掴んでいるセドリックを交互に見た。


「……確かに、危なかったですわ」


「無事で良かったです。このまま私の手を離さないでください」


セドリックは亀裂を避ける場所までアリスを引いた後も、ずっと手を放さなかった。


「もう安全ですわ」


「ダメです。次の危険へ向かわない保証がありませんので」


「わたくしを何だと思っていらっしゃいますの?」


「私の大切な婚約者です」


アリスの動きが止まった。


セドリックは何事もなかったように歩き始める。


突然返ってきた言葉を処理しきれないまま、アリスは手を引かれて通路を進んだ。


その後方では、マクシミリアンが足元の岩を先に確認しながら、リリィを安全な場所へ誘導していた。


「こちらを歩くのだ。右側は濡れている」


「ありがとうございます」


「段差がある。手を」


リリィが差し出された手を取ると、マクシミリアンは満足そうに頷いた。


一方、カイルもエレノアの前にある岩を避けようと、彼女を壁際へ誘導しようとした。


その時、エレノアが壁に刻まれた小さな紋へ気づいた。


三本の短い線の上に、欠けた三角形が描かれている。


彼女は即座にカイルの袖を掴んだ。


「殿下、こちらへ」


「エレノア嬢?」


カイルが引かれるまま一歩移動する。


直後、先ほどまで彼が立っていた場所へ、天井から拳ほどの岩が落ちてきた。


硬い音が通路へ響く。


騎士たちが一斉に上を向いた。


「今の紋は、古い時代に使われていた警告です」


エレノアは壁の印を指し示した。


「上部の岩が脆い場所や、落石の危険がある場所へ刻まれていました」


「……そうか」


カイルは、床に落ちた岩を見下ろした。


先ほどまで彼女を守るつもりでいたはずが、実際に守られたのは自分の方だった。


「助かった。ありがとう」


「この先も、殿下は私の側を離れないでくださいませ」


「……承知した」


僅かに肩を落としたカイルを見て、レオナルドが笑いを堪えるように顔を背けた。


一行は、壁に同じ警告の紋がないか確認しながら進んだ。


やがて通路の幅が広がり、円形の空間へ出る。


その先に、巨大な石壁が立ちはだかっていた。


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