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【完結】無自覚転生令嬢の物理魔法  作者: 深谷 汎
第7章 ランバート領 と 新たな謎

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第108話 紋が示すもの

「この紋は、目印だけではなかったのですね」


セドリックが、紙へ描かれた線を見つめた。


「この四本の柱の動かし方を示しているのかもしれませんわ」


アリスは、柱の位置を書き加えた。


三本の柱は、それぞれ三つの曲線に対応している。


直線の溝がある柱は、中央を貫く線の端に置かれていた。


「からくり仕掛けのようなものですわね」


「カラクリ?」


リリィが聞き慣れない言葉を繰り返す。


「像の向きを変えたり、決められた順番で石を動かしたりすると、内部の留め具が外れるのですわ」


「留め具が外れると、どうなる?」


マクシミリアンが尋ねた。


「それは、動かしてみなければ分かりませんわ」


「分からないものを動かそうとするな!」


「ですが、調査に来たのですから――」


「二人とも、少し待て」


言い争いが始まる前に、カイルが止めた。


「仕掛けである可能性は高い。だが、何が起こるか分からないのも事実だ。動かすなら、全員を柱の外へ下げてからにする」


四本の柱が囲む範囲から、必要のない者を退避させる。


柱を動かすのは護衛と調査員に限り、アリスとセドリックは離れた場所から指示を出すことになった。


最初に、三本の柱を弧状の溝に沿って回転させる。


石畳に刻まれた曲線と、柱の根元にある印が重なる位置を探した。


一本目の印が重なった時、地下から硬い音が響く。


「そこで止めてくださいませ!」


アリスの声を受け、護衛たちが柱を固定する。


二本目を動かすと、今度は別の場所から金属の擦れる音が聞こえた。


少し戻し、再び動かす。


根元の印が線と重なった瞬間、最初の柱と同じ音がした。


三本目も、同じように位置を合わせる。


三本の柱が所定の位置に収まると、石畳の下を何かが移動していった。


低く、重い音だった。


一行は息を潜めた。


しかし、それ以上の変化は起こらない。


「間違っていたのでしょうか」


リリィが尋ねた。


アリスは紙へ写し取った紋と、四本の柱を見比べた。


三つの曲線に対応する柱は、全て位置が合っている。


残っているのは、中央を通る一本の線だけだった。


アリスは、最初にマクシミリアンが動かした柱へ目を向けた。


「マクシミリアン様」


「何だ」


「先ほどと同じ方向へ、あの柱を押してくださいませ」


マクシミリアンは不満そうな顔をした。


それでも、リリィが見守っていることに気づくと、何も言わず柱の前へ進んだ。


護衛たちと共に縄を握り、柱へ力を加える。


柱が直線の溝に沿って、ゆっくりと中央へ動いていく。


指一本分。


さらに、もう少し。


やがて柱の根元にある印が、石畳の直線と重なった。


その瞬間、四本の柱の下から重い音が響いた。


石畳が震える。


「全員、下がれ!」


カイルの声と同時に、護衛たちが柱から離れた。


マクシミリアンは真っ先にリリィのもとへ戻り、彼女を抱き寄せて石畳の外へ下がる。


石畳の中央に、黒い線が走った。


亀裂に見えたそれは、左右へ真っ直ぐ伸びていく。


次の瞬間、中央に並んでいた石が二つに分かれ、低い音を立てながらゆっくりと移動し始めた。


土と苔が剥がれ落ち、石の下から冷たい空気が吹き上がる。


やがて、石の動きが止まった。


四本の柱の中央に、暗い穴が開いていた。


その中には、地下へ向かって延びる石造りの階段がある。


誰も、すぐには言葉を発しなかった。


階段の先は、地上から差し込む光が届かないほど深い。


神殿跡地には、何も残されていなかったのではない。


入口そのものが、長い年月、石畳の下へ隠されていたのだ。


「地下に、何かありますわ」


アリスが階段へ一歩近づいた。


その肩を、マクシミリアンがすぐに掴む。


「待て。まだ入るな」


「見るだけですわ」


「お前の“見るだけ”は信用できない!」


石畳の下から吹き上がる冷たい風が、一行の間を通り抜けた。


その風には、湿った匂いが混じっていた。


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