第107話 四本の石柱
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紋の一致が確認されると、調査員たちは四本の柱と、その周囲を詳しく調べ始めた。
柱の高さと太さを測り、紋の形を紙へ写し取る。
ほかにも文字や印が残されていないか、表面の土や苔を少しずつ取り除いていく。
崖の壁面も調べたが、人工的に削られた跡や、入口らしきものは見つからなかった。
石畳の隙間には長い年月をかけて土が入り込み、草の根が深く張っている。
目につく亀裂や石の継ぎ目も確認したが、変わったところはない。
魔力を測る器具も、反応を示さなかった。
時間だけが過ぎていく。
日が傾き始める頃には、調べられる範囲を一通り見終えていた。
「紋は見つかりましたけれど、それだけですわね……」
アリスは、四本の柱を見上げた。
同じ文明と関係する場所であることは分かった。
しかし、ベレニケ領で見つかったような装置は、どこにも残されていない。
「建物ごと失われた可能性もあります」
セドリックが崖へ目を向けた。
「崖崩れが起きていたなら、遺構の一部が土砂の下へ埋まっていることも考えられます。ただ、それを確かめるには大がかりな掘削が必要です」
「今日は、ここまでにした方がよいのではないか?」
マクシミリアンが言った。
朝から森と草原を歩き続け、全員の顔に疲労が見え始めている。
崩れた石材の多い場所で、暗くなってから作業を続けるのは危険だった。
「一度戻って記録を整理し、必要な装備を考え直した方がいい」
そう言いながら、マクシミリアンは四本の柱のうち一本へ寄りかかった。
その時……
ゴゴッ…
低い音が響いた。
マクシミリアンの身体が僅かに沈む。
「うわっ!」
慌てて柱から離れると、彼が触れた柱は元の位置から指一本分ほどずれていた。
全員の視線が柱へ集まる。
「今、動きましたわね」
アリスの目が見開かれた。
「私は何もしていないぞ! 少し寄りかかっただけだ、壊してはいない!」
「誰も、壊したとは言っておりませんわ」
言いながら、アリスは既に柱の根元へしゃがみ込んでいた。
リリィも心配そうに近づこうとする。
「リリィは離れていろ。倒れるかもしれない」
先ほどまで弁明していたマクシミリアンが、すぐに彼女の前へ立った。
アリスは柱の根元を覆う土と苔を、道具を使って慎重に取り除いていった。
やがて、石畳と柱の間から細い隙間が現れる。
自然に生じた亀裂ではない。
柱の底を囲むように、滑らかな線が続いていた。
「この柱、石畳と一体になっていませんわ」
セドリックも隣へしゃがみ込んだ。
「初めから、動かせるように作られていたということですか?」
「おそらく」
アリスは、柱がずれた方向を確認した。
根元には、草原側から四本の柱の中央へ向かって、短い直線状の溝が刻まれている。
柱は、その溝に沿って僅かに移動していた。
「柱の下に、重さを支えながら動かせる仕組みがあるのかもしれません」
アリスは、柱の根元から目を離さなかった。
カイルが護衛たちへ指示を出す。
「柱の周囲から人を下げろ。倒れる可能性もある。動かす前に、現在の位置を記録しておくんだ」
柱と石畳に印を付け、元の位置を記録する。
そのうえで縄を掛け、護衛たちが慎重に力を加えた。
柱は倒れなかった。
石が擦れる音を立てながら、先ほどと同じ方向へ僅かに動く。
同時に、石畳の下から小さな金属音が響いた。
「何かにつながっていますわ」
アリスが石畳へ耳を近づけようとする。
その襟を、マクシミリアンが後ろから掴んだ。
「顔を近づけるな」
「音を確認するだけですわ」
「お前の“だけ”は信用できない」
アリスは不満そうな顔をしたが、襟を掴まれたままではどうにもならなかった。
代わりにセドリックが膝をつき、石畳の下から伝わる音に耳を澄ませる。
「柱を動かすと、中央の方で音がします。石の下に金属の部品があるようです」
残る三本の柱も調べることになった。
根元の土を取り除くと、それぞれに人工的な溝が見つかった。
ただし、最初の柱にあったのは直線の溝だったが、ほかの三本には柱を囲むような弧状の溝が刻まれている。
試しに力を加えると、三本の柱は決められた範囲だけ回転した。
「四本の柱全てが、動くように作られているのですね」
リリィが驚いたように言う。
「ええ。けれど、動き方が違いますわ」
アリスは、紋の刻まれた柱を見上げた。
三つの曲線と、その中央を通る一本の線。
三本の柱に残された弧状の溝。
そして、もう一本の柱に残された直線の溝。
「まさか……」
アリスは石畳の清掃を始めた。
セドリックと調査員たちも加わり、四本の柱の間に積もった土や苔を取り除いていく。
すると、石畳の表面から、細い線が少しずつ現れた。
線は柱から柱へ伸びている。
一つ一つを見ただけでは意味のない傷のようだったが、位置を紙へ写し取ると、見覚えのある形になった。
三つの曲線と、その中央を通る一本の線。
柱に刻まれていた紋と同じ形である。




