第105話 理由を失った立入禁止地
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ランバート領に残された神殿跡地を調べるため、正式な調査チームが組まれた。
同行するのは、アリス、セドリック、カイル、レオナルド、マクシミリアンを中心とする開発班のメンバー。
さらに、現地を案内するリリィと、神殿跡地に関する文献の発見に携わった文献調査チームの文官、一行を警護する騎士たちも加わることになった。
出発の日。
王立研究所の前には、調査道具を積むための馬車が並んでいた。
古代文字や紋を記録するための紙と筆。
魔力の反応を調べる計測器。
地形や遺構の位置、高低差を測るための測量器具。
それらが、次々と馬車へ積み込まれていく。
全ての荷物を積み終えた頃、一人の女性がやってきた。
年齢は、アリスより二歳年上。
落ち着いた栗色の髪を後ろでまとめ、王宮文官の制服を隙なく着こなしている。
彼女は一行の前まで来ると、丁寧に一礼した。
「文献調査チーム所属の王宮文官、エレノアと申します。このたび、ランバート領の調査へ同行するよう命じられました」
その顔を見たカイルが、僅かに首を傾げた。
どこかで見覚えがある。
しばらく記憶をたどった後、カイルは「ああ」と声を上げた。
「思い出した。君は、私たちが学園へ入学した年に最終学年だったね」
エレノアが顔を上げる。
「はい。カイル殿下たちとは、一年間だけ在学期間が重なっております」
「試験のたびに、成績表の一番上に名前が載っていた。教師たちが何度も君を見習えと言っていたから、よく覚えているよ」
「そのようなお言葉を頂くほどではございません」
エレノアは恐縮したように頭を下げた。
だが、その声にも表情にも、ほとんど乱れはない。
「そうか。卒業後は王宮の文官になっていたんだね」
カイルは納得したように頷いた。
「今回の調査、よろしく頼むよ。文献の知識が必要になる場面も多いだろうからね」
「承知いたしました。今回発見された文献の内容だけでなく、古い記録に使われている文字や表現についても、可能な限り協力できればと思います」
アリスも、エレノアへ頭を下げた。
「よろしくお願いしますわ。私たち、文献の解釈については専門ではありませんもの」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。この調査への同行を、とても楽しみにしておりました」
「楽しみ?」
マクシミリアンが聞き返した。
「はい。文献を読むだけでは、遺跡の規模や現在の状態までは分かりませんから」
淡々とした返事だったが、その瞳には強い好奇心が浮かんでいた。
◇ ◇ ◇
調査チームは予定どおり王都を出発し、ランバート領へ向かった。
ランバート領に到着すると、一行は領主館へ迎え入れられた。
まず行われたのは、神殿跡地と、その周辺に残る言い伝えについての聞き取り調査だった。
リリィの父であるランバート子爵をはじめ、領地の記録を管理する文官、古くから仕える使用人、近隣の村の代表者が順番に呼ばれた。
しかし、得られた答えは、どれも似たようなものだった。
「神殿跡地へ近づいてはならないと、昔から言い伝えられている」
「今では崩れた石壁や柱が残っており、危険だからだろう」
それ以上の事情を知る者はいなかった。
なぜ、最初に神殿跡地へ近づくことが禁じられたのか。
いつ頃から、その決まりが伝えられるようになったのか。
その問いに答えられる者は、一人もいなかった。
湖の底へ沈んだ村について知る者もいない。
神殿跡地が呪われているという話も、現在の領民には伝わっていなかった。
「私も父から、近づいてはいけないと言われただけです」
年老いた村人が、申し訳なさそうに答えた。
「その父も、祖父から同じことを言われたそうで。なぜ昔から禁じられているのかと尋ねても、そう決まっているとしか……」
エレノアは、その言葉を一つずつ記録していった。
「禁止だけが残り、その始まりとなった理由が失われているのですね」
聞き取りが終わると、領主館に保存されていた記録も調べられた。
土地の所有を記した台帳。
村ごとの収穫量をまとめた報告書。
水不足や洪水が起きた年の記録。
古い道や建物の位置を描いた地図。
神殿跡地について記されたものもあったが、いずれも『崩れた旧神殿』や『立入禁止地』と記されているだけだった。
そこにも、立入禁止となった本来の理由を示す記述は残されていなかった。




