第1 0 3 話 お守りと呼ばれた石柱
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「分かった。まずは、その旧神殿について調べさせよう」
カイルは、すぐにレオナルドへ視線を向けた。
「ランバート領の旧神殿に関する記録を、年代、古代文明の遺跡として分類されている資料だけではなく、神殿、祭祀、土地の変遷、災害、村の記録まで全てを集めるよう、文献調査チームへ伝えろ!」
「承知いたしました」
レオナルドは手帳を開き、指示を書き留めていく。
「ランバート家にも連絡し、領内に残されている古い記録を確認させます」
「頼む」
カイルが答えると、アリスは再びリリィへ向き直った。
「リリィ様。旧神殿以外に、ランバート領で変わったものをご覧になったことはありませんか?」
「変わったもの、ですか?」
リリィは困ったように首を傾げた。
「例えば、ベレニケ領で見つかったものと似た装置や、用途の分からない建造物ですわ」
「申し訳ありません。思い当たるものは……」
リリィは考え込んだが、やがて小さく首を振った。
「ランバート領は、ごく普通の農業地帯です。雨の少ない時期には川の水量が減り、農作物が水不足の被害を受けることはありますが、それはほかの領地でも起こることです。古代魔道具と思われるものが見つかったという話も、聞いたことがありません」
ランバート領には火山もなければ、異常な熱を発する土地もない。
季節によって雨量が変わり、少雨が続けば川の水が減る。
その程度なら、王国内のほかの領地でも珍しいことではなかった。
「……旧神殿の紋だけが手掛かりですわね」
アリスがそう言った時、マクシミリアンが僅かに眉を寄せた。
「……いや。」
全員の視線が、マクシミリアンへ向けられる。
「何かあるのですか?」
セドリックが尋ねた。
「古代魔道具かどうかは分からないが、ランバート領に、ほかの領地では見なかったものがあった」
「何ですの?」
「石で作られた置物だ」
マクシミリアンは、記憶の中にある形を確かめるように、両手で大きさを示した。
「婚約の手続きでランバート領を訪れた時、領内の家々の庭に、同じような形の石の置物が置かれていた。田畑にもあったはずだ」
「置物……?」
アリスの目が細められる。
「どのような形でしたの?」
「私の腰より少し低いくらいの石柱だ。上の部分が平らになっていて、中央に何かをはめ込むような窪みがあった。側面にも溝が刻まれていたと思う」
マクシミリアンは、そこまで説明してからリリィへ顔を向けた。
「リリィ。あれは何なのだ?」
「あの石のお守りですか?」
リリィは、当然のように答えた。
「お守り?」
「はい。家の庭にあるものは家族を守り、田畑にあるものは作物を守ると伝えられています」
「本当に、お守りなのか?」
「私に尋ねられましても……」
リリィは困ったように眉を下げた。
「幼い頃から、そう教えられてきました。ですが、祈りを捧げる日が決まっているわけでもありませんし、何かを供えることもありません。あまりに昔からあるため、今ではわざわざ気に留める者もほとんどいません」
「領内の全ての家にあるのですか?」
セドリックが尋ねる。
「新しく建てられた家にはありませんが、古くから残る家の庭には、ほとんどあります。田畑でも、邪魔にならない限りは動かさずに残されています」
「同じ形のものが、家と田畑の両方に……」
アリスは呟きながら、手近にあった紙へ石柱の形を書き始めた。
「ほかの領地にはありませんでしたわね?」
「少なくとも、私は見たことがありません」
マクシミリアンが答える。
婚約の手続きに伴う滞在中、彼はリリィの案内で領内を何度か巡っていた。
そのたびに、同じような石の置物が家々の庭や田畑へ置かれているのを目にしていた。
当時は、ランバート領に伝わる風習なのだろうと思い、それ以上は気に留めなかった。
「装飾品であれば、家ごとに形が違っていてもよいはずです」
セドリックが言った。
「それが同じ形をしており、家だけでなく田畑にも置かれている。しかも、上部には何かをはめ込むためと思われる窪みがある」
「最初から、お守りとして作られたものではないのかもしれませんわね」
アリスは、描き上げた石柱の上部へ円を加えた。
「何か別の用途を持っていたものが、使い方を失ったあとで、お守りとして扱われるようになった可能性がありますわ」
リリィは、驚いたようにアリスの描いた図を見つめた。
「では、あの置物も古代文明と関係があるのでしょうか?」
「今の段階では分かりません。ですが、旧神殿に同じ紋が残され、領内には用途不明の石造物が数多く存在する。調べる価値は十分にありますわ」
旧神殿の紋。
家々の庭と田畑に残された、同じ形の石造物。
はたして、その二つは古代文明と関係しているのか――まずは、文献調査チームからの報告を待つことになった。




