第101話 完成まで、あと一つがどうしても足りない
※毎日 朝5時に予約投稿で更新中
その後も、試行錯誤は続いた。
変換機構へ伝える力の大きさを変える。
振動の周期を変える。
複数の振動を重ねる順番を入れ替え、回転軸の速さと蓄積機構が力を放出する間隔を調整する。
変換機構に使う金属も、王国で手に入るものは一通り試された。
一度の試験が終わるたびに装置を止め、全ての部品を確認する。
計測結果を見直し、問題が見つかれば設計図へ新たな線を引く。
修正した部品を作り、試作機へ組み込み、再び動かす。
失敗。
見直し。
再設計。
そして、再試験。
その繰り返しだった。
最初は計測器にも表れなかった魔力反応が、少しずつ明確になっていく。
振動を重ねる周期を変えた試験では、変換機構の表面に淡い光が灯った。
別の金属を組み合わせた試験では、発生した魔力が出力回路の直前まで流れた。
さらに、蓄積機構から放出する力を細かく分けたことで、魔力反応が数秒間だけ持続するようになった。
確実に、完成へ近づいている。
だが、あと少しのところで反応は途切れた。
生み出された魔力は、出力回路へ届く直前で散ってしまう。
無理に流れを維持しようとすれば、変換機構へ熱が蓄積し、内部の金属板が変形する。
逆に安全性を優先して入力を弱めれば、魔力へ変わるために必要な反応そのものが起こらない。
「変換は始まっていますわ」
アリスは、試験記録に並んだ数値を見つめていた。
「物理的な力が魔力へ変わっていることは、もう間違いありません。ですが、変換された魔力を取り出す前に、流れが崩れてしまいます」
「発生した魔力の量が足りないのでしょうか」
セドリックが尋ねる。
「瞬間的な出力量だけなら、必要な値へ達していますわ」
アリスは、魔力反応が最も強く表れた箇所を指さした。
「ですが、魔石として定着させるためには、その状態を一定時間維持しなければなりません。今の変換機構では、必要な値へ達した直後に反応が打ち消されています」
「では、反応が消える前に取り出せばよいのではないか?」
カイルが言った。
「それも試しましたわ」
アリスは、机の端に置かれた黒く変色した部品へ目を向けた。
「出力のタイミングを早めたところ、変換される前の振動と熱まで出力側へ伝わり、魔力を留める回路が焼き切れました」
「遅ければ魔力が消え、早ければ出力側が壊れるということか」
「はい。その間に、魔力だけを安定して取り出せる瞬間があるはずなのですが……」
その瞬間を見つけるため、さらに細かな調整が行われた。
放出周期を僅かに早める。
振動の重なりを一つ減らす。
回転軸の速度を抑える。
変換機構と出力回路の間に、魔力を一時的に留める回路を追加する。
試験を重ねるたびに、成功へ近づいていることだけは分かった。
魔力反応の持続時間は伸びている。
出力回路へ届く量も増えている。
一度だけ、変換された魔力が火属性へ導かれたこともあった。
しかし、魔石として定着させるには出力も持続時間も足りず、反応はすぐに消えてしまった。
「あと少しですわ」
アリスは何度もそう言った。
あと一つ、何かが足りない。
変換機構の形なのか。
振動の周期なのか。
使われている素材なのか。
それとも、まだ気づいていない別の機構が必要なのか。
答えが分からないまま、大規模な改修が行われるたびに、試作機の番号だけが増えていった。
第六試作機。
第七試作機。
第八試作機。
そして、第九試作機。
第九試作機では、魔力反応が十二秒間持続した。
これまでで最も長い記録だった。
最初は弱かった反応が、時間とともに少しずつ強くなっていく。
研究員たちは、期待を込めて計測器を見守った。
そして十二秒目。
瞬間的な出力量が、火の魔石を作るために必要な値へ達した。
だが、その状態を維持するよりも先に、変換機構から光が消えた。
静かになった装置の前で、誰もすぐには口を開かなかった。
「……また、同じところです」
セドリックが計測器から目を離した。
「必要な出力へ達した直後に、反応が崩れています」
アリスは設計図へ視線を落とした。
すでに余白は、修正の線と数値で埋め尽くされている。
「何かを見落としていますわ」
「これだけ見直しても、まだですか?」
マクシミリアンが、机に積まれた失敗記録を見ながら尋ねた。
「ええ。ベレニケ領の古代魔道具は、同じ変換を長い年月繰り返しています。できない仕組みではありませんもの」
「古代文明にしか作れない部品が使われている可能性は?」
「その可能性も残っていますわ」
アリスは、これまでに試した素材の一覧へ目を向けた。
「ですが、素材を変えても、反応はよく似た崩れ方をしています。一方で、機構の形や周期を変えれば、反応が途切れる時間も変わっています。特殊な素材だけが原因というより、まだ再現できていない仕組みがあると考える方が自然です」
「つまり、構造そのものに見落としがあると?」
「はい」
アリスは、反応が途切れた瞬間の記録へ指を置いた。
「完成まで、あと一つですわ」
その一つが分からない。
出口は見えているのに、最後の扉だけが開かない。
開発班は再び試作機を分解し、変換機構の見直しを始めた。




