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【完結】無自覚転生令嬢の物理魔法  作者: 深谷 汎
第6章 古代魔道具 と 代替品開発

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第100話 代替魔道具の試作は失敗に終わる

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こうして、王宮の宝物庫に保管されていた古代魔道具は、一つずつ解析されていった。


用途を突き止められたものについては、どのように力を取り入れ、内部へ伝え、必要な動作へ変えているのかが記録された。


最後まで用途の分からなかったものについても、部品の形や配置、ほかの装置と接続するためと思われる箇所まで、可能な限り詳しい図面が作られた。


やがて、宝物庫に残されていた全ての古代魔道具について、分解せずに行える調査が終わった。


その間にも、文献調査チームからは次々と報告書が届けられていた。


古代文明の遺跡が発見された際の記録。


各地から王宮へ運び込まれた古代魔道具の一覧。


古代文字が刻まれた石板の写し。


用途不明の装置を目撃した者が残した手記。


完全な設計図や製造方法を記した文献は見つからなかった。


それでも、断片的な記述を集めていけば、古代文明が魔道具をどのように捉えていたのか、その一端を推測することはできた。


開発室の机には、王宮の古代魔道具を解析した図面と、文献調査チームから提出された報告書が積み上げられた。


アリスとセドリックは、それらをベレニケ領の洞窟で記録した資料と突き合わせていった。


「この部分は、温風を生み出した古代魔道具の回転機構に似ていますわ」


アリスが、ベレニケ領の装置を描いた図面の一部を指さす。


「確かに、回転軸の位置と周囲の溝が一致しています」


セドリックは、二枚の図面を重ね合わせた。


「ただし、ベレニケ領の装置の方が大きいですね」


「扱っている力が違うからでしょう。こちらは僅かな魔力で歯車を動かしていましたが、ベレニケ領では地下から伝わる熱や圧力を受け止めなければなりませんもの」


力が変換される方向は異なっている。


王宮の古代魔道具は、魔力を回転や熱へ変えていた。


一方、ベレニケ領の装置については、観測記録を再解析した結果、地下から熱だけでなく圧力や微細な振動も伝わっていることが判明した。装置はそれらの力を取り込み、魔力へ変えていると考えられた。


それでも、力を取り入れ、内部へ伝え、別の形へ変えて利用するという基本的な構造には、共通する部分があった。


別の箇所には、用途不明だった円筒とよく似た接続部分が見つかった。


円筒の内部には、強く巻かれた金属板と複数の歯車が組み込まれていた。


そこへ回転軸から力を加えれば、金属板へ少しずつ力を蓄えられる。


そして、一定量に達したところで歯車が切り替わり、反対側の接続部へ力を送り出す。


そう考えれば、ベレニケ領の古代魔道具が、強弱のある地下の力を受けながら、一定の周期で火の魔石を生み出していることも説明できた。


「地下から取り入れた力を、そのまま魔力へ変えているのではありませんわ」


アリスは、新たな線を図面へ書き加えた。


「一度、内部へ蓄えています。そして、必要な量に達したところで、変換機構へ送り出しているのでしょう」


「力を取り入れる機構、蓄える機構、一定量ずつ送り出す機構、そして魔力へ変える機構」


セドリックが、装置の働きを順番に書き出す。


「火の魔石を作る部分は、その先ですね」


「ええ。全てが一つの仕組みで動いているのではなく、役割の異なる機構を順番につないでいるのですわ」


王宮に残されていた古代魔道具も、用途こそ異なっていたが、複数の機構を組み合わせて作られていた。


力を取り入れる部分。


歯車や回転軸を使って伝える部分。


大きさや周期を整える部分。


そして、受け取った力を別の形へ変える部分。


古代文明では、必要な機構を組み合わせることで、用途の異なる魔道具を作っていたと考えられた。


「これならば、ベレニケ領の装置も、同じ考え方で再現できるかもしれませんわ」


アリスの言葉を受け、代替魔道具の設計が始まった。


地下から伝わる熱や圧力、振動を受け取る機構。


取り入れた力を回転軸へ伝える機構。


不規則に加わる力を一時的に蓄え、一定量ずつ送り出す機構。


物理的な力を魔力へ変換する機構。


変換後の魔力を火属性へ導き、魔石として定着させる機構。


必要な部品が一つずつ書き出され、その大きさと配置が計算された。


王宮の古代魔道具と同じものを作るのではない。


解析によって判明した仕組みを、現代の素材と加工技術で再現する。


古代文明でしか作れないと思われる部品については、同じ働きをする別の構造へ置き換えられた。


アリスが装置全体の仕組みを考え、セドリックが各部へ加わる力と必要な魔力量を計算する。


研究所の技術者たちが、実際に製造できる形へ図面を修正していく。


レオナルドは必要な素材と職人を手配し、カイルは試作にかかる費用と人員を確保した。


マクシミリアンは、試作機を動かした際に部品が飛び出さないか、熱や圧力が危険な場所へ逃げないかを確認した。


何度も修正を重ねた末、代替魔道具の最初の設計図が完成した。


「これで、ようやく作り始められますわ」


壁に掲げられた設計図を見上げ、アリスは嬉しそうに言った。


設計図を基に、最初の試作機が作られた。


王立研究所の開発室には金属製の大きな台が組まれ、その上に歯車や回転軸、力を蓄えるための円筒が取り付けられていった。


地下の熱や圧力、振動を実際に利用することはできない。


そのため最初の試験では、熱源、圧力を加えるための筒、ベレニケ領で記録された不規則な揺れを再現する振動板を使い、地下から受ける力を研究所内で再現することになった。


「安全装置を作動します」


マクシミリアンが、試作機の周囲を確認した。


「異常な回転や圧力の上昇を検知すれば、入力側と蓄積機構が切り離されます。可動部にも防護板を設置しています」


「今回は、どこにも立っていただく必要はありませんわ」


アリスが付け加える。


「当たり前だ!」


マクシミリアンの返事を聞きながら、セドリックは計測器を起動させた。


試験が始まる。


熱源によって作動流体が温められると、膨張した流体が筒の内部を押し動かした。一定の位置まで動くと、作動流体の加熱から冷却へ切り替えられ、収縮した流体が元の位置へ戻る。


それとは別に、圧力を加えるための筒が不規則な間隔で押し込まれ、振動板からは強さや周期の異なる揺れが送り込まれる。


それぞれの動きは、連結された回転軸へ集められていった。


歯車が噛み合い、取り入れられた力が蓄積機構へ伝わっていく。


円筒内部の金属板へ力が蓄えられ、一定量に達すると、反対側の回転軸が動いた。


「入力機構は正常です」


セドリックが計測結果を読み上げる。


「蓄積機構への伝達も、計算した範囲に収まっています」


不規則に与えられた力は、一定の間隔へ整えられている。


変換機構までの部分は、設計どおりに動いていた。


「変換機構へ送りますわ」


アリスが操作すると、蓄積された力が最後の機構へ流れ込んだ。


全員が計測器を見守る。


しかし、魔力を示す針は動かなかった。


変換機構へ力は届いている。


回転軸も、計算どおりの速さで動いている。


それにもかかわらず、物理的な力は魔力へ変わらなかった。


金属同士が擦れ合い、熱が生まれただけだった。


「……停止しますわ」


試作機が止められ、開発室に静寂が訪れた。


「変換機構以外は、設計どおりに動いています」


セドリックが記録を確認する。


「ですが、魔力反応はありません」


アリスは、試作機の中央にある変換機構を見つめた。


力を取り入れることはできた。


蓄え、一定量ずつ送り出すこともできた。


変換後の魔力を火属性へ導き、魔石として定着させる機構についても、外部から魔力を与えた単独試験では正常に作動している。


問題は、その二つをつなぐ部分だった。


物理的な力を魔力へ変える。


肝心の変換機構だけは、王宮の古代魔道具を解析しても、完全な仕組みを突き止められていなかった。


設計図に描かれた変換機構は、判明した構造と現代の魔力理論を基に推測したものにすぎない。


「変換機構を、もう一度見直す必要がありますわね」


「構造だけではなく、これまでの解析結果も再確認した方がよいでしょう」


セドリックが答える。


最初の試作機によって、代替魔道具を作るために不足しているものが明確になった。


開発班は、一度終えたはずの解析を、最初からやり直すことになった。


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