第99話 今回は安全だったが、用途は分からなかった
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その後も、宝物庫に保管されていた古代魔道具の解析は続けられた。
二つ目の古代魔道具は、壁や床の傾きを測るための装置だった。
内部に吊り下げられた重りが常に一定の方向を示し、その傾きによって、建物や地面の僅かな変化を調べる仕組みである。
「洞窟内の床や壁の変化を継続して調べるのに使えそうですわ」
アリスの提案により、その装置についても再現が検討されることになった。
ベレニケ領の古代魔道具へ直接触れなくても、周囲の岩盤がどのように変化しているのかを測定できる。
火山活動を監視するうえで役立つ可能性があった。
三つ目は、容器の内部を一定の温度に保つための装置。
四つ目は、決められた時間ごとに音を鳴らす装置。
五つ目は、一定量の液体を繰り返し送り出す装置だった。
どれも用途を突き止めれば、現代の暮らしや産業に応用できるものだった。
そのたびにアリスが新たな利用方法を思いつき、セドリックが実現に必要な条件を計算し、カイルとレオナルドが王国での利用価値を検討する。
そしてマクシミリアンは、作動させる前に可動部や排出口を確認し、安全に使用できる構造かどうかを調べた。
一度目の事故で定められた安全規則は、今度こそ守られている。
そのため、二つ目以降の古代魔道具では、誰かが温風や水を浴びるような事故は起こらなかった。
「最初から、こうしていればよかったのではありませんか?」
マクシミリアンが、カイルへ問いかける。
「お前が温風を浴びたことで、全員の安全意識が高まった」
「私の犠牲を教育へ利用しないでいただけますか、殿下」
用途の判明した古代魔道具は、どれも古代文明の技術力を示すものだった。
しかし、地下のエネルギーを魔力へ変える仕組みに直接つながるものは、まだ見つからなかった。
そして、六つ目。
調査室の中央には、両腕で抱えられるほどの金属製の円筒が置かれていた。
外側には複数の溝が刻まれ、片方の端から太い回転軸が突き出している。
反対側には、別の装置へ接続するためと思われる窪みが設けられていた。
内部を覗くと、大小の歯車と、強く巻かれた金属板が幾重にも重なっている。
だが、これまでの古代魔道具とは異なり、表面にも内部にも魔力回路が見当たらなかった。
「本当に魔道具なのでしょうか」
セドリックが尋ねる。
「宝物庫の記録には、古代魔道具として保管されたと書かれている」
カイルが、添えられていた記録を確認する。
「ただし、発見された場所も、使用方法も不明だ。古代文明の遺跡から持ち帰られたということしか分かっていない」
アリスは、円筒から突き出した回転軸へ目を向けた。
「魔力回路がないのであれば、魔力を入れても動きませんわね」
その言葉を聞いたマクシミリアンは、心から安堵した。
「今回は安全そうだな」
「ですが、この軸を回せば動くかもしれませんわ」
安堵は、一瞬で消えた。
「待て」
「まだ回していませんわ」
「回そうとしているだろう!」
「構造を確認するには、少し動かしてみる必要があります」
「内部には、力を蓄えるためのばねのようなものが入っている。何が起きるか分からないうちは、動かすべきではない」
マクシミリアンが指摘すると、アリスは円筒の内部をもう一度覗き込んだ。
「確かに、回転軸から伝わった力を、内部へ蓄える構造にも見えますわね」
「蓄えた力が、どこから放出されるのかも分かりません」
セドリックも慎重に円筒を調べる。
「接続先と思われる窪みがあります。この円筒だけで使用する道具ではなく、何か大きな装置の一部だった可能性がありますね」
「それならば、接続されていた本体がなければ、用途を確定することは難しいかもしれませんわ」
外側から寸法を測り、回転軸や歯車の配置を記録しても、円筒が何のために作られたものなのかは分からなかった。
魔力を流して調べることもできない。
不用意に軸を回せば、内部へ蓄えられた力が一気に解放される危険もある。
結局、その日の解析では、用途不明という結論しか出せなかった。
「次の古代魔道具を調べましょう」
アリスは残念そうに言い、円筒の図面へ印を付けた。
――用途不明。
――魔力回路なし。
――単独で使用する装置ではなく、何らかの機構の一部である可能性あり。
その円筒が、代替魔道具を完成させるために欠かせない部品であることを、この時の彼らはまだ誰も知らなかった。




