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【完結】無自覚転生令嬢の物理魔法  作者: 深谷 汎
第6章 古代魔道具 と 代替品開発

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第98話 火の魔石を使わない温風

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魔力によって歯車と送風機構を動かし、温めた空気で濡れた布を乾燥させる装置。


古代文明でも、魔力だけに頼るのではなく、歯車や回転軸、空気の流れといった物理的な仕組みを組み合わせていたことが分かる。


「ですが、この装置には、火の魔石が使われていませんわ」


アリスが内部の魔力回路を確認しながら言った。


装置の中には、火の魔石を取り付けるための窪みも、火属性の魔力を流すための専用回路も見当たらない。


先ほどアリスが流したのも、属性を持たない僅かな魔力だけだった。


それにもかかわらず、装置は歯車を回転させ、温風を生み出した。


「流し込まれた魔力を、回転運動と熱へ分けているのでしょうか」


セドリックが、記録した魔力の流れを確認する。


「おそらくは。しかも、流した魔力量に対して、得られた熱と運動が大きいですわ」


「ただし、作動時間は短いものでした。長時間動かした場合にも、同じ効率を維持できるかは分かりません」


「ええ。内部へ熱が蓄積した際の安全性についても、改めて調べる必要がありますわね」


アリスは答えながらも、古代魔道具から目を離さなかった。


「ですが、この仕組みを再現できれば、ベレニケ領で作った温風送風装置へ応用できますわ」


「ベレニケ領の装置に?」


カイルが尋ねる。


「はい。あちらは火の魔石で空気を温め、別の機構で風を送っています。ですが、この古代魔道具と同じ仕組みを再現できれば、火の魔石を使わず、一つの装置で熱と風の両方を生み出せます」


「属性を持たない魔力だけで動かせるということか」


「その可能性がありますわ。人が定期的に魔力を補充するか、一般的な無属性の魔石を動力にできれば、火の魔石は必要ありません」


カイルの表情が変わった。


現在、王国ではベレニケ領で得られる火の魔石を、取水門や温風送風装置、そのほか火属性の力を必要とする魔道具へ利用する計画が進められている。


ベレニケ領の古代魔道具に代わる装置を完成させ、別の火山地帯へも設置できれば、火の魔石の生産量は増やせるかもしれない。


だが、新たな魔道具が王国中へ普及すれば、それ以上の速さで需要が増える可能性があった。


代替魔道具を完成させても、そこで生み出される火の魔石が不足しては意味がない。


「温風送風装置を、この方式へ置き換えることができれば……」


カイルが呟く。


「これまで使用していた火の魔石を、取水門や、火属性でなければ動かせない設備へ優先的に回せます」


セドリックが続けた。


「今後、王国中へ魔道具を普及させるのであれば、火の魔石を増産するだけでなく、使用する場所を選ぶ必要がありますね」


「ええ。ほかの方法で動かせる装置にまで、貴重な火の魔石を使う必要はありませんわ」


アリスは装置の図面へ、新たな線を書き加える。


「それに、この機構から熱と回転運動を別々に取り出せるのであれば、乾燥以外にも応用できます。建物の換気、穀物の保存、冬場の暖房にも利用できるかもしれません」


「待て」


埃を払いながら、マクシミリアンが口を挟んだ。


「王国中へ普及させる話をする前に、正面へ人が立っていても、いきなり温風を浴びないようにするべきだ」


「今回は、マクシミリアン様も吹き飛んではいませんわ」


「私の教本は吹き飛んだ!」


「では、排出口へ防護格子を付けましょう」


「教本を守るための装置ではない!」


「ですが、布が排出口へ入り込むことも防げますわ」


「結果として役立つ案になったからといって、私の被害がなかったことにはならないぞ!」


アリスとマクシミリアンのやり取りを聞きながら、セドリックは新たな研究項目を書き加えた。


――古代温風送風装置の再現。


さらにカイルは、調査記録の末尾へ新たな安全規則を書き記した。


――作動試験前に、吸入口、排出口、可動部の位置を確認すること。


――安全担当者が危険を指摘した場合、その理由が判明するまで作動させないこと。


それを見たマクシミリアンは、眉間に皺を寄せた。


「殿下。その規則は、試験を行う前に必要だったのではありませんか?」


「今回の結果を基に定めた規則だ」


「定めるために、私が温風を浴びる必要はなかったと思います」


「お前の指摘が正しかったことは、十分に証明された」


「証明していただかなくても結構です」


マクシミリアンは、散らばった教本と課題を拾い集める。


その一方で、アリスとセドリックは、古代魔道具の構造をさらに詳しく調べ始めていた。


今回見つかったのは、魔力を熱や回転運動へ変える仕組みである。


彼らが探しているのは、地下の熱や圧力、振動といった物理的な力を魔力へ変える仕組み。


変換の方向は、正反対だった。


この装置だけで、ベレニケ領の古代魔道具を再現することはできない。


しかし、古代文明が、一つの形のエネルギーを別の形へ変える技術を持っていたことは確かだった。


さらに、代替魔道具の完成後に予想される火の魔石不足を、緩和できる可能性も見つかった。


最初の解析から、本来の目的とは別の新たな開発が始まることになったのである。

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