第97話 警告は正しかった。被害は防げなかった
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箱の表面に刻まれた古代の魔力回路が、淡い青色に輝く。
「魔力が流れましたわ!」
「流入量は予定どおりです。異常な増幅もありません」
セドリックが計測器を確認する。
側面に組み込まれた歯車が、ゆっくりと動き始めた。
長い間、動くことのなかった金属同士が擦れ、調査室に低い音が響く。
歯車の動きに合わせ、内部に並んでいた金属棒も回転を始める。
「やはり、内部へ何かを通す装置でしょうか」
アリスは、動き始めた古代魔道具を興味深そうに見つめた。
「歯車へ流れた魔力が、回転運動へ変わっています」
セドリックは、計測した数値を記録していく。
「流した魔力量に対して、回転する力が大きいですね」
その直後。
装置の内部から、低い唸り声のような音が聞こえた。
マクシミリアンの背筋に、冷たいものが走る。
「止めろ!」
「魔力の流れは安定していますわ」
「数値ではなく、音を聞け!」
マクシミリアンが叫んだ瞬間、背面の筒から大量の空気が吸い込まれた。
調査室の空気が揺れる。
机の上に置かれていた紙の端が持ち上がり、装置へ向かって引かれていく。
「やはり吸入口です!」
レオナルドが、飛びそうになった資料を押さえる。
同時に、正面の開口部から強烈な温風が噴き出した。
「きゃっ!」
装置の側面にいたアリスが、驚いて身を竦める。
カイルとレオナルドも、咄嗟に横へ退いた。
だが、排出口を探すため装置の正面に立っていたマクシミリアンだけは、温風の進路から逃げるのが僅かに遅れた。
「なっ――!」
轟音とともに、温風がマクシミリアンを直撃する。
装置の内部に長年溜まっていた埃まで一緒に吹き出し、彼の全身を包み込んだ。
髪が大きく乱れ、上着が激しくはためく。
机の上に置いていた教本と課題の控えも吹き飛び、次々とマクシミリアンへ襲いかかった。
「魔力を止めます!」
セドリックの声に応じ、アリスが装置から手を離す。
回転していた歯車が止まり、温風も収まった。
調査室に静寂が訪れる。
マクシミリアンは、全身を埃まみれにして立っていた。
乱れた髪の上には、明日の試験範囲が書かれた紙が一枚載っている。
誰も、すぐには声をかけられなかった。
やがて、アリスが恐る恐る口を開く。
「お怪我はありませんか?」
マクシミリアンは、髪の上に載った紙を取った。
「大丈夫だと思うか?」
「温度は、それほど高くありませんでしたわ」
「そういう問題ではない!」
「ですが、マクシミリアン様のおかげで、作動前に空気を取り入れる場所へ気づくことができました」
「気づいたのに、なぜ私が埃まみれなんだ!」
「排出口までは、見つけられませんでしたので」
「だから動かすなと言ったのだろう!」
マクシミリアンの叫びが、調査室に響いた。
一方、レオナルドは装置の正面を確認していた。
「開口部の奥に、空気を送り出すための細い穴が並んでいます。背面から空気を取り入れ、内部で温めてから、正面へ送り出しているようです」
セドリックは、装置の下部にある浅い受け皿を引き出した。
「こちらは、水滴を受けるためのものでしょうか」
「回転する金属棒の間へ、濡れた布を通していたのではありませんか?」
レオナルドの言葉を聞いたアリスは、正面の開口部と金属棒を見比べた。
「そうですわ!」
アリスの目が輝く。
「濡れた布を金属棒の間へ通し、回転させながら温風を当てる装置です。おそらく、衣類や大きな布を乾かすために使われていたのでしょう」
「布を動かす機構と、温風を送り出す機構が一つにまとめられているのですね」
セドリックが、装置全体の構造を図面へ書き加える。
こうして、最初に解析した古代魔道具の用途が判明した。




