第96話 警告はした。実験は続行された
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一方、アリスは中央に置かれた古代魔道具へ視線を向けていた。
今回の解析対象は、宝物庫の奥で長年保管されていた、金属製の大きな箱である。
人が一人入れそうなほどの大きさがあり、正面には横長の開口部が設けられている。
内部には細い金属棒が何本も並び、側面には複数の歯車が組み込まれていた。
背面からは太い筒が伸び、その先端には細い隙間がいくつも開いている。
表面には古代文字と思われる印が刻まれているものの、それを読める者はいない。
何に使われていたのかも、どのように動かすのかも分かっていなかった。
「こちらの歯車は、内部の金属棒とつながっていますわ」
アリスが側面を覗き込みながら言う。
「歯車が回れば、内部の金属棒も回転するようですね」
セドリックが構造を図面へ書き込む。
「ですが、回転させて何をするのかまでは分かりません」
「正面の開口部から、何かを入れて使うものではないか?」
カイルが尋ねる。
「その可能性が高いと思います」
レオナルドが、開口部の幅を測りながら答えた。
「ただし、剣や農具を入れたような傷はありません。研磨や加工のための装置ではなさそうです」
「内部の金属棒も細すぎますわね」
アリスは開口部へ顔を近づける。
箱の内側には、複雑な魔力回路が刻まれていた。
魔力の入力箇所らしき窪みは見つかったが、現代の魔道具とは回路の配置が大きく異なる。
外側から観察しただけでは、どの部分へ魔力が流れるのか判断できなかった。
「少しだけ魔力を流してみましょうか」
その言葉を聞いた瞬間、マクシミリアンの手が止まった。
「待て」
「どうかなさいましたか?」
アリスが振り返る。
「やめた方がいい」
「なぜですの?」
「分からない」
「何がですか?」
「何が起こるのか分からないから、やめろと言っているんだ」
マクシミリアンは、古代魔道具を警戒するように見つめた。
明確な根拠があるわけではない。
ただし、アリスが用途不明の装置へ魔力を流そうとしている。
その事実だけで、これまでの経験から激しい警鐘が鳴っていた。
「魔力回路が残っている以上、まだ動く可能性があるのだろう?」
「ええ。保存状態も悪くありませんわ」
「ならば、せめて何をする装置か、もう少し推測できてからにしろ」
「ですが、動かさなければ分からないこともありますわ」
「その考えで、君は何度事故を起こしたと思っている!」
「今回は大丈夫ですわ。流すのは、ごく僅かな魔力だけですもの」
「君の言う『ごく僅か』は信用できない!」
アリスは少し考えた後、セドリックを見た。
「通常の魔道具を起動させる量の、十分の一程度にしますわ」
「その程度であれば、最初の回路へ魔力が流れるだけだと思います。流入量は私が計測します」
「セドリック様まで、なぜ動かす方向で話を進めていらっしゃるのですか!」
マクシミリアンは、今度はカイルへ視線を向けた。
「殿下も、止めてください」
「作動させなければ、解析が進まないのも事実だ」
「それは承知しております。ですが、せめて何が起きてもよいように、全員を下がらせてからにしてください」
カイルは、改めて古代魔道具の周囲を確認した。
調査室には防護結界が張られ、異常が起きた際には魔力を遮断できるよう、研究所の技術者たちも待機している。
「分かった。全員、装置から距離を取れ。アリス嬢は最小限の魔力だけを流すこと。異常があれば、即座に中止する」
「承知しましたわ!」
アリスの表情が明るくなる。
それを見たマクシミリアンは、深く息を吐いた。
「止めるようお願いしたのに、なぜ許可を出されるのですか……」
「お前は危険性を指摘する役目であって、開発を止める役目ではない」
「私は危険性を指摘しております」
「だから、全員を下がらせただろう」
反論できない。
マクシミリアンは納得できない表情のまま、古代魔道具から距離を取った。
その途中で、装置の背面から伸びている筒が目に入る。
先端には、空気を通すためと思われる細い隙間が並んでいた。
マクシミリアンは足を止める。
「レオナルド様。あの筒は、外から何かを取り入れるためのものでしょうか」
レオナルドが背面へ回り、筒の内部を確認する。
「内側へ向かって細くなっている。吸入口の可能性があります」
「それならば、別の場所に排出口があるはずです」
マクシミリアンは排出口を探すため、装置の正面へ回り込んだ。
横長の開口部。
その周囲に刻まれた溝。
だが、見える範囲に出口らしきものはない。
「やはり、まだ動かさない方が――」
マクシミリアンが言い終える前に、アリスが魔力を流した。




