22話、光明
ガイナスの家にお世話になって数日、俺はあることを聞く覚悟を決めた。
このことを聞くのであれば、俺の話もしなくてはいけなくなる気もするのだけど、数日経ってかなり落ち着いてきたので話してもいいかなと言う気持ちになっていた。
ある朝、覚悟を決めてガイナスに質問してみる。
「ガイナス、今日の予定は?」
「無いぞ」
無いらしい。
というか今まで聞いた話をまとめる限りガイナスはなにか特定の仕事をしているわけではないようだ。
こう言うとガイナスが無職のように聞こえるが、竜人族自体がみんなそんな感じらしい。
みんな、自分のやりたいことをやって生きている。
月に何度か狩りに行きさえすれば食事はどうにでもなるので、畑を耕している人も居ない。
大半の竜人族はダラダラゴロゴロして過ごしているそうだ。
中にはアテもなくブラブラと旅をしている者も居るそうで、亜人領の中で最も自由なのが竜人族のようだ。
ガイナスも、暇つぶしに釣りにでも行こうと思ったら俺を見つけたようだ。
「だったらさ、今日は俺に付き合ってくれない? 聞きたいこととか、話したいこととかあるからさ」
「いいぞ」
あっさりと了承されたので、一緒に海を見に行くことにした。
ガイナスと一緒に海へ、最早定位置となりつつある岩に少し距離を置いて腰掛ける。
「それで、聞きたいことってのはなんだ?」
「その……ガイナスの家族のこと」
ずっと気になっていた。
ベッドや食器は3人分あったのに家にはガイナス1人。
もしかしたら死別かもしれない、そう思うと中々聞けなかった。
「家族?」
「うん、ベッドとかは3人分あったのに、ガイナス1人だから」
意を決して聞いてみると、ガイナスはあっけらかんと答える。
「親父は多分今頃巨人族のところじゃねーのかな? 亜人領内をプラプラ旅をしてるはずだ。お袋は里の中に居るぞ」
「え?」
「人間には分からないかもしれんが、竜人族は家族の繋がりも薄い。子供が独り立ちすれば親はまた自由気ままに生きていくだけさ」
なんだ、そうなんだ……それが竜人族の普通なんだ。
「もしかしてそんなことを聞くために?」
「人間の俺からしたら中々聞きづらいよ」
とはいえ俺も本当の親は居ないからな……
おじいちゃんやおばあちゃん、それに……魔人さんのことは本当の家族だと思っている。
「そりゃそうか、文化の違いってやつだな」
ガイナスは軽く笑って流す。
人間とは違い、万の時を生きると言われている竜人族。
その力は全ての種族の中で最強、そんな彼らの考え方に触れられたことを面白く感じた。
「聞きたいことはそれだけか? それなら聞いて欲しい話ってやつを聞いてやるよ」
「うん、それだけ。じゃあ聞いてよ」
それから俺は、これまでの事を掻い摘んでガイナスに話をした。
産まれた時からずっと一緒に育った幼なじみが居ること。
物心着く前、3歳の時に貴族に村を襲われ村が壊滅、その時に家族を失ったこと。
村の近くに住んでいた魔人族に助けてもらい、生き残りと共に魔人族の里に移住したこと。
ほかの生き残りの村人から何があったのかを聞いたこと。
それを聞いて幼なじみを守りたいと思ったこと。
そのために助けてくれた魔人族に弟子入りしたこと。
そこで起こった事件、俺の精神的な問題。
先日初めて魔物と戦って大きな失敗をしたこと。
「俺の話はこんな感じ。あんな失敗をして、思わず飛び出してきたんだ」
ガイナスは、最後まで無言で話を聞いてくれた。
全部話したからなのか、俺の心はだいぶスッキリしていた。
「なるほどねぇ……他のことは分からんが、戦闘スタイルについて少し聞いてもいいか?」
「いいよ」
ガイナスは質問があると言い、閉じていた目を開き組んでいた腕を解いて俺へと向き直った。
「お前が剣で他者を攻撃出来ないことは分かった。でも、魔法でならどうだ? 実際ゴブリンに対して炎の魔法を使ったんだろ?」
「魔法……話したと思うけど、俺の魔法は効果範囲が狭くて……」
「それはどうでもいい。出来るのか? 出来ないのか?」
「それは……多分出来る」
咄嗟のことで集中が足りず、イメージも不完全だったのでダメージこそほとんど与えられなかったけど、ゴブリンに攻撃を仕掛ける意志を持って魔法を使った。
結果として、ほんの少しだけどダメージを与えられた。
剣を振る時とは違ってこの時に動けなくなることは無かったのだ。
「確か半径1メートルだったか? なら、魔法で攻撃をすればいい」
「そこまで引きつけろってこと?」
そこまで近付かれると俺が魔法を使うより相手の攻撃の方が先に届いてしまう。
「だから『攻撃は』なんだよ。防御は剣ですればいい」
「つまり……敵の攻撃を剣で防ぎつつ魔法で攻撃しろってこと?」
「そういうことだ」
ガイナスは満足そうに頷いた。
剣で防いで魔法で攻撃……
「お前の役割は剣での攻撃役じゃない。後衛魔法使いでもない。もちろん、回復役でも無い」
ガイナスは人差し指を立てながら続ける。
「その幼なじみの隣で戦うのも違う。お前が戦う場所は……それより前だ」
「前……」
「そう。お前がやるべきは盾役。タンクだよ」
タンク……
確か敵の注意を引き付けて、攻撃を一身に受け止める役割だって習ったことがある。
「話を聞く限り、お前の剣は受けの剣だろう? 受けて、弾いて、流して隙を着く剣なんだろ?」
「えっと……はい」
なんだか師匠から教えを受けている気分になりつい敬語で返事をしてしまう。
「それでいい。それを極めろ。剣でカウンターじゃなくて魔法で隙を着け」
「なるほど……」
「治癒魔法も使えるんだろ? ダメージを受けてもすぐさま回復するタンク、敵からすると鬱陶しいことこの上ない」
「確かに……」
もし、俺を倒さない限り敵はルーシェに攻撃出来ないとしたら?
それはルーシェを守っていることになるのでは無いだろうか?
「お前が盾だ。お前自身がその幼なじみの盾になれ。折れず、砕けず、打ち破られない盾になれ。剣での攻撃は幼なじみに任せちまえ」
「盾……」
「そうだ。それで、聞いてなかったがお前の師匠って誰だ? 魔法はその魔人族から習ったんだろうが、剣の師匠は?」
「その人に習いました」
「魔人族に? 魔人族で剣を使える奴なんて……まさか……おい、その師匠の名前は?」
心当たりでもあるのかな?
「アザトゥースです」
「アザトゥース……マジかよ、お前あのアザトゥースの弟子かよ……」
ガイナスは頭を抱えて大きな溜め息を吐いた。
これ……もしかして知り合いってこと?
「よし、決めた! お前はしばらく俺が鍛えてやる。拒否権は無しだ」
「え!?」
「そうと決まればこうはしてられねぇ。俺は出掛けてくる! お前は海を眺めるなり家に帰るなり好きにしてろ!」
「ちょ!」
ガイナスは立ち上がり、飛び去ってしまった。
一体なんだと言うのか……
それからその日は日が落ちるまで海を眺めてガイナスの家へと戻った。
ガイナスはまだ戻って来ていない。
しばらく待ってみたが、帰ってくる様子は無かったので吊るされている肉を削ぎ落として焼いて食べた。
俺、明日からどうなるんだろうか……




