21話、スローライフ
竜人族の男にしばらくついて行くと、何件かの家屋が見えてきた。
「こっちだ」
男は、その中でも一番大きな家の前に降り立った。
ここがこの男のいえなのだろうか?
「ようこそ竜人族の里へ。歓迎するぞ家出小僧」
「どうも……家出小僧ってなんだよ」
変な名前で呼ばないでよ。
「だってお前名乗らないから名前が分からん」
「アンタだって名乗ってない」
竜人族の男は「そうだっけか?」と首を傾げる。
「名乗ってなかったならスマン。俺はガイナスだ」
「……グレン」
名乗られたので名乗り返しておく。
さすがにここまで来てしまったのだ、名乗らないわけにはいかない。
「グレンだな。よし、とりあえず入るぞ」
ガイナスに続いて家に入ると、中には壁や仕切りのない大きな部屋になっていた。
「驚いたか? 竜人族の家はこんな感じだぜ」
「そうなんだ」
少し興味をそそられて部屋の中を観察する。
部屋の隅には調理場、調理器具や食器が並べられている。
大きな肉の塊も吊るされている。
反対側にはベッドが3つ並んでいる。3人家族なのであろうか?
家の中に置かれている物は以上である。
他に物は無く、なんだか殺風景な部屋だ。
「とりあえず飯だ。何か作ってやるから適当に座って待っとけ。ただし、味には期待するなよ?」
ガイナスは吊るされている肉を削ぎ、軽く塩を降って焼き始めた。
「ほらよ」
焼きあがった肉を皿に載せて俺の前へ置いた。
でかい……
ガイナスの方を見ると、俺に渡した肉の倍くらいの大きさの焼かれた肉が載った皿が置かれていた。
「足りるか? 足りないならまだ焼くぞ」
「多いよ……食べ切れるかな」
俺の前にあるのは、1キロはありそうな肉。
こんなに食べられるかな……
「なに? そんなこと言ってたらでかくなれねぇぞ? いいから食え」
ガイナスに促されて肉に齧り付く。
決して不味くは無いが、美味いわけでもなかった。
「うっ……ご馳走様」
「食えたじゃねーか」
少し時間は掛かったが、なんとか完食することができた。
「腹いっぱいになったな? よし、なら寝るぞ」
「え?」
もう寝るの?
色々聞かれると思ってたんだけど……
「ああ、寝ろ。明日の朝も何か作ってやるからそれも食え。海を見に行くんだろ?」
「えっと……」
「何があったかなんて知らんし興味もそこまで無い。しばらく置いてやるから好きにしろ。話したくなったら話せ。話半分で聞いてやる」
それだけ言って、ガイナスはベッドに潜り込んだ。
「ああ、ベッドは好きな方を使え」
「わ、わかった……」
思わず納得しそうになったが、一つだけ聞いておかなければならない事があった。
「ねぇ、ガイナス」
「なんだ?」
既に寝る姿勢に入っているからか、若干不機嫌そうに返される。
しかし、聞かないわけにはいかない。
「トイレどこ?」
「トイレ?」
ガイナスは身を起こして不思議そうに聞き返してきた。
え? トイレ通じない?
「用を足す場所」
「ああ、なるほどな。そうか、人間は排泄回数も多いのか」
ガイナスはうんうん頷いて1人で納得していた。
「悪いが、無いな。俺たち竜人族は数日に一度しか排泄をしない。そうだな、家の裏にでも適当に穴を掘って済ませてくれ。終わったら埋めておけよ?」
「穴……」
「じゃあ俺は寝る」
ガイナスは、再びベッドに体を横たえた。
これは……言われた通りにするしかないか……
家を出て裏に回り、残り少ない魔力を使って小さな穴を掘り、そこに用を足す。
穴を埋めてから少量の水を発生させて手を洗って家の中に戻る。
ガイナスは既に眠っているようで、大きなイビキが聞こえている。
俺は、少しでも遠い位置にと思い真ん中のベッドを空けてガイナスの反対側のベッドに潜り込んだ。
昨日から寝ておらず、大量の魔力を消費した俺の体は、一瞬のうちに眠りに落ちた。
「おい、起きろ」
翌朝、ガイナスの声に起こされた。
窓の外は明るい、どうやら寝過ぎたようだ。
「おはよう」
「はいおはようさん。肉焼いたから食え。食ったらまた海を見に行くんだろ?」
ベッドから起き上がりガイナスの手元を見ると、昨夜食べた肉の3分の1程の大きさの肉の乗った皿を持っていた。
朝から肉……しかも昨日は寝る直前に食べたからまだ腹に残っている。
食べ切れるかな……
「俺は暇だから適当に狩りにでも行く。戻りたくなったら好きに戻ってこい。昼間は好きにしたらいいが、日が落ちるまでには戻ってこい。いいな?」
「わかった」
肉に齧り付きながら返事をすると、ガイナスはさっさと出掛けてしまった。
俺も肉を食べ終えて、水魔法を使って皿を綺麗にしてから家を出る。
そのまま飛翔魔法を使って昨日の岬へ移動、そのまま昨日座っていた岩に腰掛けて今日も1日海を眺めて過ごした。
日が暮れ始めた頃にガイナスの家に戻り、大量の肉を食わされて就寝、そんな生活が数日ほど続いた。




