23話、一方その頃
~魔人さん視点~
「さて……どうしたものか……」
グレンを風呂に入れて綺麗にして自室に放り込んだ後、僕は自室で頭を悩ませていた。
今日のゴブリンとの戦闘を思い出す。
途中まではグレンも上手く立ち回っていた。
攻撃こそしていなかったが、状況を正しく理解して上手くルーシェのサポートが出来ていた。
なのに、グレンが攻撃を仕掛けた瞬間に、グレンは固まってしまった。
理由は分かっている。
昔、ルーシェと打ち合いをさせた時にグレンの木剣がルーシェの頭を直撃した。
ルーシェは目を回して気絶してしまい、あの時のグレンの慌てようは今でも覚えている。
あの頃のグレンは小さかったな……
久しぶりに一緒に風呂に入ったけど、本当に大きくなって……
って違う違う、考えが変な方に進んでしまっている。
「あの件は完全に僕の落ち度、僕の責任だ」
脳天クリティカル事件。
グレンのトラウマは間違いなくそれが原因だ。
グレンのトラウマを解消する責任は、僕にある。
今まで色々試してみたけれど、効果は無かった。
今回、新しい装備も手に入れたことだし荒療治に挑ませたのも僕だ。
追い込むためにあんな嘘までついて……
ダメだ、頭の中がグチャグチャだ。
一旦整理するためにも今日はもう寝てしまおう。
「とりあえず……明日は休みにしようか。グレンにも冷静になって考える時間は必要だろうし」
よし、そうと決まれば寝てしまおう。
僕も、明日は一日悩むだろうしね。
グレンともゆっくり話す必要もあるだろうね。
そう考えて、ベッドに潜り込んだ。
グレンがあんなにも悩んでいたことも知らずに……
翌朝、早起きして朝食を作るかーちゃんの手伝いをする。
少しでも動いていた方が考えが纏まるからね。
準備が出来た頃にとーちゃんとルーシェも起きてきた。
グレンは降りてこない、まだ寝てるのかな?
「ルーシェ、グレンを起こしてきてくれる?」
「はーい!」
しかし珍しいね。
普段ならグレンの方が先に起きてきていて、ルーシェを起こすように頼むんだけどね。
余程疲れたのかな?
最近では恥ずかしがりながら起こしに行くグレンが可愛くて毎朝見ていたい気分だったんだけど、今日はまぁ仕方ないね。
そんなことを考えながら自分の席に座って待っていると、ルーシェが大慌てで階段を駆け下りてくる音が聞こえてきた。
「大変! グレンが! グレンが!」
蹴破るように扉を開いてルーシェが転がり込んでくる。
グレンが大変? なにかあったのか?
「どうしたんだい?」
「グレンが……グレンがどこにも居ないの!」
「なんだって!?」
慌てて立ち上がり、グレンの部屋へと向かう。
「グレン!」
部屋の扉を開くが、中には誰も居ない。
開け放たれた窓から、朝特有の冷たい空気が流れ込んできているだけだった。
部屋の中を見渡す。
テーブルには僕が昨日置いた剣と鎧がそのまま置かれている。
ベッドの脇にはグレンの靴がそのまま置かれている。
グレンは裸足で居なくなった?
「もしかして……誘拐?」
いや、有り得ない。
この平和な魔人族の里でそんな大事件が起こるとは考えづらい。
そもそも、もし本当なさに誘拐だとして、僕が気付かないはずが無い。
「グレン……」
僕の後ろに居たルーシェが踵を返して走り出す。
「待て!」
駆け出すルーシェの腕を掴んで引き止める。
「離して! グレンを、グレンを探さなきゃ!」
「落ち着いて!」
僕の大声にルーシェがビクッとする。
しまった、落ち着くべきは僕の方だった。
「アザトゥース!」
とーちゃんとかーちゃんも階段を駆け上がってきた。
あの様子では、1階にはグレンは居なかったのだろう。
「とーちゃん……ルーシェをお願い」
「それはいいが……アザトゥース、お前はどうするんだ?」
「僕がグレンを探しに行くよ」
ルーシェを行かせるわけにはいかない。
あの様子だと、昨日の大森林の入口まで走って行こうとするかもしれない。
だから、とーちゃんに任せる。
「分かった。俺とルーシェは里の中を探しておこう」
「お願いね」
グレンの部屋に入り、窓枠に足をかける。
「魔人さん! あたしも、あたしも行く!」
「ルーシェちゃん、落ち着いて!」
「おじいちゃん離して!」
とーちゃんの拘束を外そうとルーシェが暴れる。
魔法はともかく、身体能力では既にとーちゃんよりルーシェの方が強い、このままでは振りほどかれるだろう。
仕方ない。
「ルーシェ」
「魔人さん! 連れて行って! お願い!」
「ダメだよ」
「なんで!!」
ルーシェは冷静ではない。
落ち着かせるにはちょっと強引な手を使うしかないだろう。
これは黙って見ていた方が面白いと思っていたからあまり言いたくはなかったんだけど……
「ルーシェは里で待ってて」
「なんで! あたしも行く!」
「そんなんじゃ、グレンのいいお嫁さんになれないよ?」
「!?!?!?!?」
ルーシェの動きが止まった。
徐々にその顔も真っ赤に染まっていく。
「ここで待っててあげて。もしもグレンが帰ってきた時にルーシェが居ないと寂しがるよ?」
「ちょ! そ……な!?」
ルーシェはなんとか誤魔化そうと手足をワタワタさせながら言葉にならない声を出している。
可愛いね。
しかし僕やとーちゃん、かーちゃんがルーシェがグレンのことを好きなことを知らないとでも思ってたのかな?
当然、グレンがルーシェのことが気になっていることも知っている。
暖かく見守るつもりだったけど、この際仕方ない。
グレンとルーシェは産まれた時からずっと一緒に育っている。
既にお互いがお互いを失うことなんて考えられないだろう。
だからこそ、ルーシェはこんなあにもとりみだしているのだ。
そして、ルーシェを安心させるのは僕の役目なのだ。
これは……帰ったらグレンにはお説教だね。
「大丈夫。僕が必ずグレンを見つけて連れて帰るから。ルーシェは安心して待ってなさい」
「魔人さん……はい……」
少し、落ち着いたようだね。
これならとーちゃんに任せても大丈夫だろう。
「じゃあ行ってくる」
窓枠を蹴り、空へと浮かぶ。
グレンはどこに行ったのだろうか?
こんな時、人が向かうのは頼りになる人の居る場所か、思い出の場所のはず。
「なら……」
一応村人たちを弔った墓地を確認、グレンの姿は見えない。
それなら、故郷の村だろうか。
僕は村に向かって全速力で飛んでいく。
魔力消費を全く度外視した超高速飛行で数時間で村の上空に到着するが、誰かが訪れた痕跡は見当たらない。グレンの気配もない。
「もしかして、追い抜いた?」
一応全速力で飛びながらも気配の探知は怠っていない。
ならグレンはここには向かっていなかった?
「なら……どこだ? もしかしてゴルドさん?」
新しい装備を手に入れた思い出の場所、それを作った頼れるゴルドさん……
こっちかと思い今度はドワーフ族の里へ、ゴルドさんを訪ねて話を聞くが、どうやら来ていないらしい。
「なら……」
もしかして1人で大森林へ?
昨日戦った場所へ行ってみるが、誰もいない。
「グレン……何処にいるんだ……」
それから数日、寝る間も惜しんで飛び回って探し続けた。
そんなある日、とーちゃんから緊急通信が届いた。
「アザトゥース、今何処にいる?」
「とーちゃん、今は巨人族の里の近くだよ。どうしたの?」
「グレンの居場所が分かった」
「なんだって!?」
とーちゃんから驚愕の知らせを告げられた。
「どこ!? 何処にいるの!?」
「落ち着け。まず、グレンは無事だ」
「それは……良かった、本当に良かった……」
全身から力が抜ける。
危うく飛翔魔法が解けて落下するところだった……
「巨人族の里の近くならすぐ戻れるだろう? すぐに帰ってきてくれ」
「分かったよ!」
疲れと寝不足で体が重いし頭もフラフラする。
けど、ようやくグレンの居場所が分かったんだ、気力で耐えて全速力で家へと戻った。




