二人の入学式
四月九日。
今日はナノ君とミヤビちゃんの入学式だ。
今日は出会い頭に珍しく脛を蹴られることもなく、スリッパで頭を叩かれることもなかった。
流石にサクヤちゃんのいる前ではもうやめておこうという気になったらしい。
やったら即反省室送りだしね。
「ふん。お前の事、認めたわけじゃないからな」
っていうお小言はご丁寧に頂いたわけだけど。
まぁこれぐらいなら可愛いもんだ。
「はいはい。これからもよろしくね。ナノ君」
と言いつつ頭をポンポンと撫でてあげる。
「やめろおおおおおおおお!!!」
叫びながら手をバタつかせるナノ君。
なんかすごい勢いで拒絶されてしまった。
「……陽花さん、ナノは背が小さいの気にしてるからやめてあげて」
ポツリとミヤビちゃんがそう呟く。
あ、そうなんだ。
「ごめんね、ナノ君」
「ふん。そのうち絶対おまえより背高くなってやる!」
そう言ってプイッっと頬を膨らませ拗ねるナノ君。
ほんと嫌われてるなぁ……私。
原因は私にあるとはいえ何か悲しい。
「……ナノはシスコンなだけだから本当に気にしないで陽花さん」
そんな私の様子を見てミヤビちゃんは慰めてくれる。
うう……ミヤビちゃんはほんとにいい子だなぁ。
そう思い今度はミヤビちゃんの頭を撫でてあげる。
「……陽花さん、はずかしいです……」
恥じらいながら顔を真っ赤にするミヤビちゃん。
うわ、めっちゃかわいいんですけど。
何この子。ほんとにカノの妹なの?
かわいいなー、ほんとかわいいなぁ。
思わず頬ずりしちゃいそうだよ。
ていうか、思いっきりしてた。
「やめ……」
はぁ……テラスちゃんとはまた違ったこの髪の毛のもふもふ感もたまらな……。
「やめろって言ってるだろ!この変態女!!!」
声と共に脛を思いっきり蹴飛ばされた。
痛い。メチャメチャ痛い。
そして私の頬ずりから解放されたミヤビちゃんは私に蹴りを入れたナノ君の陰に隠れていた。
ていうか変態女って何!
私は可愛いものを愛でてただけだというのに!
「今のはお姉ちゃんが悪い」
「そうですね。弁解の余地なしです」
「ミヤビ。このお姉ちゃんは狼だからあんまり軽々しく近づいちゃ駄目よ」
妹達から冷たい眼差しで、口々に非難の言葉を浴びる私。
「うう……すいませんでした……。あまりの可愛さに我を失っていました」
と、弁解するしかないのであった。
なんかますますナノ君に嫌われてしまった気がする……。
―――
そんなこんなで入学式も無事に終了し。
後片付けも終わった頃。
「今日も歓迎会やるよ!」
「やるよーやるよー!」
アカリが勢いよく扉を開けて桜花と共に入ってきた。
うん、アカリ。
あなた、生徒会の役員ですよね。
今まで仕事しないで何処ほっつき歩いていたのかな?
アカリが元気になったのはいいけど桜花が増えて、ますます面倒臭くなったような気がするのは気のせいでしょうかね。
まぁ良いんだけど……。
「で、今日は誰の歓迎会をやるの?」
すっかり阿呆委員長に戻ってしまったアカリに対してため息をつきながらそう尋ねる。
「伏見屋でナノ君とミヤビちゃんの歓迎会」
「ミヤビちゃんはともかくナノ君は来たがらないんじゃないの」
私、めっちゃ嫌われてるしね。
「その辺は私がうまい事言いくるめておいた」
「アカリ、残念だけど平日はミヤビは店番中よ」
「だから、伏見屋でやるんだよ」
つまり、カノに店番変われって言いたいんですね、アカリは。
ホント、図々しいというかなんというか。
はぁっと大きくため息をつきながらも
「可愛い妹の為ならしょうがないか」
と渋々承諾するカノだった。
で、現在伏見屋の一室。
生徒会の役員一同とナノ君、ミヤビちゃんで席を囲んでいる。
「えーと。とりあえず、今日はナノ君と、ミヤビちゃんの歓迎会ってことで。自己紹介もしましょう」
主催のアカリが音頭を取って自己紹介を始める私達。
「まずは生徒会長の月依から」
「霧島月依。サクヤちゃんの弟といえど、お姉ちゃんになんかやったらカムイでぶっとばすのでよろしく」
しょっぱなから物騒な挨拶だった。
ナノ君もあまりの事に言葉を失っていた。
うんその紹介はちょっと刺激が強すぎるかな……月依……。
「……よろしく月依さん」
そんなナノ君とは裏腹に月依に礼をするミヤビちゃん。
こういうマイペースなとこはカノにそっくりだなぁと思う。
「……あははは……なかなかエッジの効いた自己紹介だったね。じゃあ次は、陽花かな」
アカリも笑顔を張り着かせながら空気を変えようと次を促す。
「霧島陽花です。サクヤちゃん達とはクラスメイトだけど高千穂の社員です」
「ふーん……。『歩く天変地異娘』ってよばれるぐらい落第生なんでしょ」
嫌味交じりにナノ君はそんなことを呟く。
うう……実際そうだけどさ……!
ちゃんと正規じゃない方法使えば普通にカムイつかえるんだぞ!
絶対言えないけど。
月依の方を見ると思いっきりナノ君をにらんでいた。
ひええええ……こんなとこでドンパチやらかす雰囲気にならないでよう。
「……ナノの嫌味はシスコンのせいだから気にしないで陽花さん」
半分涙ぐんでいた私を慰めるようにミヤビちゃんはそう言ってくれる。
ほんと、良い子やで……、ミヤビちゃん。
「んじゃ次は、桜花だね」
そんな雰囲気をものともせずアカリは司会を進行していく。
そこがアカリの良い所ちゃ良い所なんだけど。
「はいはーい。私の名前は野口桜花。陽花達とは一学年下だけど高千穂の社員でっす。桜花先輩って呼んでね」
「分かりました、桜花先輩」
「……よろしくお願いいたします」
うん……私以外にはホント素直なんだよなぁ。ナノ君。
「それじゃ。最後はテラスちゃん」
「うむ。私はテラス=オオヒルメ。タカマガハラの皇帝だ。一応学生だからその辺は気にせずにテラス先輩とでも呼べばいいぞ」
「分かりました。よろしくお願いします、テラス先輩」
「……よろしくお願いいたします。テラス先輩」
テラスちゃんも二人の後輩に先輩と呼ばれて嬉しかったのか上機嫌だった。
そんなこんなで、私達の自己紹介も終わり、伏見屋での歓迎会の夜は更けてゆく。




